1 はじめに
収れん現象による火災事例は全国でも数件報告される程度で、本市では過去20年間の統計を見ても、出火原因が収れんと特定された火災は発生していない。
先般、管内において、水を入れたペットボトルの収れん現象による火災が発生したので、特異な事例として、実験結果を交えて紹介します。
2 火災事例
(1) 出火日時 平成19年8月 12時頃
(2) 出火場所 福岡市南区の一般住宅の庭
(3) 損害状況
① 人的被害 なし
② 物的被害 ウッドデッキの床面、テーブル及び網戸、スプレー缶(殺虫剤)を焼損
(4) 火災概要
① 発見時の状況
近隣者が、爆発音に気づき、隣を見るとベランダから黒煙が出ていたので、自宅から119通報した。なお、爆発音の10分前くらいから焦げ臭いにおいがしていた旨の供述がある。
② 初期消火の状況
近隣者が、自宅から水道ホースを延ばし消火する。結果、初期消火成功。
(5) 原因概要
専用住宅1階ウッドデッキにおいて、鋳物製テーブルに置かれた水入りペットボトルがレンズの役割を起こし、テーブル上のドライフラワーや新聞紙等に着火し、火災に至ったもの。
(6)調査概要
① ウッドデッキの全景
② テーブル上の焼損状況
③ テーブル上のペットボトル、スプレー缶の状況(復元配置)
④ 椅子の焼損状況
⑤ ウッドデッキ床面の焼損状況
⑥ ウッドデッキ平面図
⑦ テーブル上の復元状況
⑧ 当日の気象状況
・天気~晴れ
・風向~北北西
・風速~6.0m/s
・気温~31℃
・湿度~35%
・実効湿度~62%
*出火時刻の太陽の位置(国立天文台、歴計算室ホームページから)
・高度~74.5°
・方位~173.0°
(7) 出火原因の判定
① ウッドデッキのテーブル上の新聞紙に焼けを認め、ごみ袋に入れられた枯草等にも焼けが認められる。
② 近隣者の供述に「バ~ンという爆発音の10分位前から、焦げ臭いにおいがしていた。」とあること。
③ 出火時間が昼間で、何者かが不法侵入し火を付けたとは考えにくいこと。
④ 出火時間の気象状況で、天気及び湿度において日射量が高かったと推定されること。
以上のことから、本件火災の出火原因は、テーブル上のペットボトルがレンズの役割となり、収れん現象を起こして新聞紙等に着火し、火災に至り、その炎で近くにあった殺虫剤スプレー缶を爆発させたものと推定する。
3 収れん現象の説明
収れんとは、太陽からの光が何らかの物体により反射又は屈折し、これが1点に集まることをいい、その場所に可燃物がある場合、熱が蓄積し発火に至る場合がある。
4 燃焼実験
(1) 実験の目的
収れん現象の再現実験で、凸レンズの構造に類似したもの(ペットボトル、ガラス玉、虫眼鏡)を使用し、発火に至るまでを検証する。
(2) 実験日時
平成19年11月11日(日)13時~
気温:14℃
相対湿度:47%
太陽高度~35.0°
方位~205.8°
(3) 実験場所
南消防署敷地内
(4)実験内容
① ペットボトルの収れん状況
ア 大きさ、形状の異なる各種ボトルに太陽光を真横から照射
イ 入射角度75°で、ボトル底部の収れんを調査
ウ 収れん部の温度測定(2次元放射温度計による測定)
(ア)円形500ml~測定温度:71.9℃
※早期に発煙する。
(イ)円形1,500ml~測定温度:55.2℃
※直後に発煙する。
(ウ)円形②1,500ml~測定温度:73.9℃
※直後に発煙する。
(エ)色付1,500ml~測定温度:45.8℃
② ガラス玉(ペーパーウエイト:直径8㎝)の収れん状況
※直後に発煙、無炎燃焼が発生。
測定温度:86.8℃
③ 虫眼鏡(直径11.5㎝)の収れん状況
※直後に無炎燃焼が発生。
測定温度:130.8℃
*備 考
直径5㎝の虫眼鏡による焦点温度は、516度に達するといわれており、本実験の焦点温度は、2次元放射温度計の測定値より4~5倍高く上昇していることになる。
④ 収れんによる発火実験
虫眼鏡、ガラス玉、ペットボトルをそれぞれ発火に至るまでの時間経過を測定する。
虫眼鏡(φ11.5㎝) ガラス玉(φ8㎝) 円形1,500ml(透明)
*発火までの時間経過は、各1回の実験測定値を記載したもので、実験ではペットボトルが早く発火しているが、無炎燃焼から発火するまでの過程には気象条件(風速)が大きく左右した。
5 実験結果
球面を持ち、凸レンズに類似する構造を持つ物質の付近に、新聞紙等の着火物があり、そこに太陽光が収束すれば、容易に無炎燃焼を起こす。
この現象は、水を入れた500mlペットボトルでも起こる現象であり、気象条件(湿度、日射強度、風速)と着火物の条件が整えば発火に至ることが判明した。
また、ペットボトルの形状により収れん効果に差があることが判明した。
6 考 察
収れん現象による火災事例は、本市にあっては過去20年間の統計を見ても、出火原因が収れんと特定された火災は発生していない。
しかし、他都市の事例を見ると、自動車のフロントガラスに貼った透明な吸盤によるもの、猫よけ犬よけの水入りペットボトルによるもの、その他、金魚鉢や鏡などもあり、収れんにより発火し火災に至る危険性が日常生活の中に多く存在しているといえる。
7 今後の教訓と課題
収れん火災は日差しが強い夏場特有のことと思えるが、冬場でも発生する。
冬場は、太陽高度が低いため、部屋の奥まで日光が届いて収れん現象が発生しやすく、統計的には冬場の方が多いようである。
つまり、年間を通して条件が整えば、収れん火災に至る危険がある。
よって、火災の原因調査において、収れんによる要因も頭の片隅に入れておく必要がある。