消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(49)
建物火災陶芸窯の煙突による接触過熱について

1 はじめに

 生活様式の多様化や団塊世代の大量退職時季迎え、退職後に生き甲斐を求めて趣味で陶芸の世界に入って行く世代が多く、陶芸ブームの波にも乗り個人で陶芸用の窯を購入し工房を開設している人が多くなってきている。
 今回は、そんな個人陶芸家の工房から出火して納屋併用工房を部分焼した事例について紹介する。

2 火災事例

出火日時 平成19年4月 午後8時頃
出火場所 浜松市K区
火災種別 建物火災
建物用途 納屋併用工房
構   造 木造階数2/0
建築面積132㎡
延べ面積・236㎡
焼損程度 部分焼
焼損状況 木造2階建て屋根瓦葺納屋併用工房の1階屋根部分(従前住宅として使用していた建物を納屋とし、その一部に工房を設けているもの)5㎡を焼損。
発 火 源 油用陶芸窯の煙突
経   過 接触過熱
着 火 物 屋根裏の構造材

3 出火時の状況

 行為者は、朝9時頃に窯に火を着け、日中は出火場所である工房内で陶芸の作業をしていた。夜8時頃には窯の温度計が1,230度になっているのを確認後、20分間位その場を離れて近くの母屋で食事を取っていた。
 発見については、行為者が煙突下部の壁面付近から炎が出ているのを発見し、行為者の妻が119通報している。
 消火については、行為者及び隣人が水バケツ及び粉末消火器で初期消火を実施、その後、通報により到着した消防隊の放水により鎮火させた。

4 実況見分状況等

(1)現場における見分状況
 出火した建物は戦前に建築したもので、その後、家人が内装や建具等を改築したもので、平成11年までは行為者の住宅と使用していた。
 その後、母屋建設に伴い当建物は陶芸を行う納屋併用工房に変更され現在に至っている。
 出火箇所については、1階屋根の煙突付近である。
 煙突直上部の屋根裏の構造材である垂木、野地板は一部焼失している。残存する垂木や野地板の端部は激しく炭化し、煙突側の面に焼きが強く見分される。残存する垂木から煙突側までの離隔距離は測定すると4センチメートルである。
 行為者によれば煙突側と屋根裏面との間には、厚さ3センチメートルの不燃石膏ボードを設置してあったとのことであり、煙突直下のコンクリート床面には割れて破損した石膏ボード片が多数認められた。しかし、当石膏ボードの煙突付近での施行状況については不明である。

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写真1

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写真2 煙突及び天井裏の状況

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写真3 屋根面の状況

(2)行為者からの情報
 陶芸窯は平成19年1月に購入し、1月に1回、2月に4回、3月に2回、4月は2回使用した記録が残っており、出火当日は10回目の使用日に当たる。使用した日は8時間から11時間程度、窯は継続して燃焼している。
 窯内温度は最大1,250度になるとのことである。
 陶芸窯(灯油窯)についての知識(メーカー取説)
・ 窯内部は最高温度1,250度に達する。
・ 窯外壁より60センチメートル以内に建物の壁面及び可燃物がないこと。
・ 窯上部から天井までが1メートル以上であること。
・ 煙突は外周部を断熱施工なしの場合にはおよそ300度に達する。
・ 壁面、屋根を貫通する場合は厚さ100ミリメートル以上の熱伝導性の低い不燃材料によるめがね石とする。
・ 焼成時は、過熱による火災の防止と燃焼排気ガス及び一酸化炭素による空気汚染に注意を払い、必ず換気をする。

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写真4 陶 芸 窯

(浜松市火災予防条例第17条の2から抜粋)
・ 火を使用する設備に付属する煙突の基準…金属製又は石綿製の煙突は小屋裏、天井裏、床裏等にある部分を金属以外の不燃材料で防火上有効に被覆すること。
(建築基準法施行令第115条の要約)
・ 排気筒、排気管又は給排気管と「不燃材料以外の材料による仕上げをした建築物等の部分」との離隔距離(空間部、貫通部共通)
… 排気温度260度を越える場合には、断熱施工なしの排気筒は15センチメートル以上
… 排気温度260度を超え、排気筒に厚さ10センチメートル以上の断熱材(不燃材)で断熱施工をした場合は0センチメートル以上
… 排気温度260度を超え、10センチメートル以上の金属以外の不燃材料のめがね石(コンクリート製のめがね石等)を設置。
… 排気温度260度を超え、15センチメートル以上の離隔距離であれば片面を鉄板等で覆うことも可能。

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5 煙突各部分の温度測定試験

(1) 今回り災した陶芸家宅の陶芸窯を使用して、煙突各位置の温度測定を実施しました。

(2) 陶芸窯の内部温度は開始から終了まで1,229度を保持している。

(3) 温度測定日の気象条件は以下のとおり
6月某日 天候曇り 外気温24度
午後4時43分測定開始
午後5時25分測定終了

(4) 煙突内部は断熱材等を巻いてないものを使用している。

(5) 厚さ20センチメートルのめがね石を貫通する位置の煙突表面から5センチメートルの離隔距離をおき角材の表面温度を測定した。

(6) 測定箇所の説明
A…… 煙突上表面温度
B…… 厚さ36ミリメートルの石膏ボード表面温度
C…… 厚さ24ミリメートルの石膏ボード表面温度
D…… 角材表面温度
(非接触温度計にて測定)

(7) 温度測定試験結果
 今回の温度測定試験は、先方の諸事情で約40分間だけの限られた時間内で実施する状況でした。
 B点における温度測定結果は、石膏ボードを乗せ10分後には81度となり20分後82度、30分後85度、40分後は88度まで達し、ここで測定は中止となりましたがこの状態が維持されれば引き続き温度上昇が予測される結果を得ることができました。

(8) 業者による温度測定状況

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煙突各位置の温度測定表

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温度測定位置図

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写真5 灯油窯の温度測定状況

※ 煙突内部は厚さ11ミリの断熱材(セラミックフアイバーライザースリーブ)を巻いてあるものを使用

6 出火原因等

 原因については、実況見分状況等及び関係者の供述から煙突付近から出火しているのは明白である。煙突及び陶芸窯は今年の1月に新品で購入し今回を含め10回使用している。1回の使用時間は約8時間から11時間である。8時間使用時は素焼きで窯内部温度は800度まで上昇、11時間使用時は本焼きといい窯内部温度は1,250度に達する。接続する煙突の周囲温度は、測定結果から平均300度前後である。
 一般的に木材を加熱すると120度で酸化発熱反応が始まり、さらに加熱を続けると熱分解が進み、やがて木材の引火点の240~270度に達する。その後400~470度の発火点になると火源を近づけなくても、自然に着火して燃えるようになる。低温着火では150度前後の熱で長期間にわたり加熱することにより木材が発火する現象と定義されているが、今回は300度前後の熱で短期間に集中的に加熱され、一気に木材の炭化が進んだものと言える。また、本り災建物は築80年以上が経過していることから、木材の水分含有量は低い状態で低温着火し易い状況であったものと考えられる。
 出火した建物は、戦前からある住宅を改装し納屋として陶芸窯の作業所として使用している。2階屋根裏部分に近接して設置される煙突の排気熱が周囲の屋根裏材に伝導加熱してやがて発火し、周囲に延焼拡大したものである。
 市内の某陶芸窯製造会社の協力により入手した顧客リストを基に調査したところ、浜松市内及び近隣市町村に約80人の陶芸窯使用者が存在している。1社の顧客数のため実際にはこの何倍かの人数が潜在していると思われる。調査対象中の約3割がガス窯を使用し約6割が電気窯、1割が灯油窯を使用している。煙突が必要なのはガス及び灯油窯のため電気窯については今回の調査対象から除外した。
 この中でK消防署管内の設置戸数を調査し電話および現地を訪問調査した結果、6件のガス又は灯油の陶芸窯設置件数があった。
 特筆すべきはその中の1件の灯油窯設置宅では、煙突と壁体の離隔距離は数センチメートルで基準値からは到底及ばず、壁体については厚さ数ミリのベニヤ板で施工されていた。当然めがね石等の設置もない状態であった。
 このため、所有者に対して、煙突が原因の類似火災発生の事実を知らせ、火災予防条例上の煙突設置基準を説明して改善を指示した。

7 終わりに

 今回の事例は、煙突に起因した小規模な焼損で済んだ建物火災であり、原因の究明については特段迷いのない事例である。
 冒頭でも触れたが、陶芸家自身の火災や熱に対する危険性の認識不足や業者施工後に施主自身が使い勝手向上のため、煙突に接して木材で風除けを設ける等の改造行為があるため、類似火災発生防止のためにも陶芸窯の実態調査、施主及び施工業者に対し今後、同様な事案が再発しないように設置に関し注意喚起した。