消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(48)
ヒーター火災鑑賞魚用ヒーターからの出火

1 はじめに

 この火災は、発砲スチロール箱の中に飼育昆虫用おがくずを敷き、クワガタを保温し飼育していたところ、発砲スチロール箱の中から発火し出火した火災である。
 火災調査の際、発砲スチロール箱を発掘したところ、その中から鑑賞魚を飼育する水槽の水を自動保温するための鑑賞魚用ヒータが見分されたもので、調査概要と再現実験の結果などを紹介する。

2 火災の概要

(1) 発生日時
平成19年11月23日 16時34分頃
(2) 発生場所
新潟市西区内 第一種住居区域内住宅
(3) 焼損程度
鉄筋コンクリート一部木造2階建住宅の2階部分焼及び内容品の一部焼損(図1)

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図1 2階居室焼損状況

3 調査概要

 供述によると、15時頃居住者が建物2階居室において、飼育しているクワガタを保温するため、発砲スチロールの箱(縦50㎝、横40㎝、高さ20㎝)におがくずを深さ3㎝程度敷いて、その上に当日購入したばかりの鑑賞魚用ヒータを置き、電源コードのプラグをコンセントに差込み、箱の蓋を閉めたままその場を離れ1階に降りた。その後16時35分頃、2階から焦げ臭い匂いがしたので様子を見に行こうとしたら、階段を伝って煙が降りてきたとのことであった。
 実況見分の結果、2階居室から焼損により原形をとどめていない発砲スチロールが見分され、さらに発掘すると鑑賞魚用ヒータが見分された。
 鑑賞魚用ヒータの焼損は少ないものの、他の火源が見分されないことから、鑑賞魚用ヒータが何らかの原因により発火したものと考えられ、同一メーカー、同一機種を用い再現実験をすることとした。

4 再現実験

(1) 使用資機材
ア 鑑賞魚用ヒータ
イ 発泡スチロール箱
ウ 飼育昆虫用おがくず
エ ビニールシート(保温用)
エ 温度測定器
オ 時計
カ 実験用ブレーカ盤

(2) 実験方法
発砲スチロール箱に飼育昆虫用おがくずを約5㎝敷き詰め、鑑賞魚用ヒータをおがくず上に置き通電し、経過を観察した。(写真1~5参照)

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写真1 実験開始

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写真2 ヒータ本体から発火

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写真3 焼損した鑑賞魚用ヒータ

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写真4 ヒータ先端部焼損状況

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写真5 ヒータ下部焼損状況

(3)実験経過

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5 出火原因

 実況見分の結果、発砲スチロール箱付近の焼損が最も激しく、他の火源が見分できないこと、また再現実験の結果、鑑賞魚用ヒータが過熱し発火したことから、本火災は、居住者が2階居室内において、飼育しているクワガタを保温するため発泡スチロール箱に飼育昆虫用おがくずを敷き、その上に鑑賞魚用ヒータを置き電源を入れてそのまま放置したため、鑑賞魚用ヒータが過熱し、おがくず及び発泡スチロールの箱に着火し出火したものと判定した。

6 終わりに

 鑑賞魚用ヒータの多くは、温度過熱防止のサーモスタットが、本来、水中のみでその機能を発揮する設計となっているが、本事案は、本来の使途と異なった使用によって出火したものである。
 また火元関係者は、本行為により火災に至る危険性の予知、理解が欠けていたものと思われるが、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災においても、鑑賞魚ヒータを使用中、地震により水槽が転倒したのち、電気の復旧により周囲の可燃物に着火し火災が多発したことが、当時火災原因の一つとして話題になったところである。
 消防としても、このような想定外の使途においては、機器の安全機能も万全ではなく、火災に至る危険性が十分に潜んでいるということを、あらゆる機会を通じて周知し、広く注意喚起を図っていかなければならないと考察する。
 また機器の取扱いに関し、目的外使用による事故等は、基本的に使用者責任であることは言うまでもないが、メーカーに対しても、取扱い説明書等における禁止事項表示の視認性の向上や、水中以外での過熱防止機能の付加など安全対策の強化を望むところである。