消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(45)
ガスパン火災ガスパン遊びによる火災について

 みなさん、「ガスパン遊び」という遊びを知っていますか。  本市において、「ガスパン遊び」をしている最中に火災となったという事案がありましたので、紹介します。

1 「ガスパン遊び」について

(1)「ガスパン遊び」とは

 「ガスパン遊び」とは、スプレーやライター用などのガスをビニール袋等にためるなどして、シンナーのように吸引する行為をいいます。この遊びは、1990年前後に中高生の間で広がり、現在に至っているもので、窒息などで死亡しているケースもあるようです。

(2)なぜ、「ガスパン遊び」が流行したのか。

 流行した背景としては、シンナーに比べて常習性が低いとされることや、事実上、取り締まる法令が整備されていないことが挙げられるようです。シンナーはトルエンが毒劇物取締法の指定成分となっており、指定成分が含まれないエアゾール製品の制汗スプレー、燃料ガスボンベなどは、吸引しても同法違反には当たらないということです。また、シンナーに比べエアゾール製品は簡単に入手しやすいということも大きな要因と思われます。

(3)「ガスパン遊び」に使うガスは

 「ガスパン遊び」をする際に使用するガスは、ブタンガスを主成分とするガスで、主なものとしてライター詰め替え用ガス、カセットコンロ用ガス、エアゾール製品の噴射剤が多く使われているようです。  なお、エアゾール製品にも多種にわたる製品がありますが、「ガスパン遊び」には制汗スプレーを使用することが多いようです。

(4)このガスの影響は

 ブタンを主成分とするガス自体に強い毒性やシンナーのような中枢神経麻痺作用はない(一部の文献では神経系の障害が出るとある。)とされていますが、酸素欠乏による幻覚症状が出ることがあるようです。  実際に、「ガスパン遊び」の経験者(本火災とは直接関係していない人です。)は、「クラッとして、その後に気分が高揚した。」、「体がポーっと浮いた感じになる。制汗スプレーは吸い込みにくいけど、100円ショップで売っているライター用のボンベは味も良かった。」というようなことを言っています。

2 火災の概要

(1)発生場所及び建物の概要

 住宅街の中の、耐火造3階建ての共同住宅

(2)被害状況

 3階の1室から出火(爆発)し、室内が全損状態(室内に若干の焼け有り)、爆風とともに屋外に飛んだ飛散物により車両等に被害が出ている。
 図1に示す“火”室が出火室で、室内には数種類の制汗スプレーが全部で31本(未使用のものは約半数)、数枚のビニール袋、たばこ、ライターが散乱している。

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図1

 室内で焼損しているのは、収容物の表面だけで深い焼けは一切ない。破損の状況については、“火”室の天井は全体的に押し上げられたような状態で、入り口のドア及び窓は内側から圧力をかけられたように変形破損している。
 “火”室以外は天井裏側から押し下げられるような形で破損しており、壁体についても内側から圧力をかけられたように破損している。ダイニングキッチンはコンクリート躯体に直接壁紙を貼っているところであったため爆風による被害はなく、また、浴室についても、ユニット式であったため点検口が外れたくらいでほとんど被害はない状態であった。

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廊下天井の破損状況

(3)負傷者の状況

 出火時に“火”室にいた6名が火傷などの負傷(重症2名、中等症4名)をしている。

3 出火原因

 出火原因は、出火室にいた6名が制汗スプレーをビニール袋に入れて吸引していたところ、室内に制汗スプレーの噴射剤として混入されているLPガスが滞留し、爆発限界内に入っているときに、たばこを吸うためにつけたライターの火が引火し爆発したものと推定している。

4 エアゾール製品について

 エアゾール製品の構造は、図2にあるとおりで、ボタンを押してバルブを開くことにより、容器内で圧力をかけられている原液と噴射剤の混合内容物が、ディップチューブを通ってボタンの孔からいっきに放出されることになる。放出された内容物は、減圧による噴射剤の急激な膨張によって細かい霧や泡になるという仕組みとなっている。

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図2

 噴射剤としては、LPガス、ジメチルエーテルの利用が多いようである。
 内容物の噴射剤の混合割合は、10%から90%と製品によって違いがある。

5 「ガスパン遊び」による爆発について

(1)制汗スプレーの成分等

 制汗スプレーにもいろいろなメーカー、製品、容量があり、今回の火災現場にも複数の種類の制汗スプレーがあった。この中にもあったA社製品の135g入りの制汗スプレーを例とし、成分等について以下記述する。なお、スプレー内の原液については、企業秘密等の理由により具体的な成分がわからないが、爆発現象に直接影響はないものとして考える。

ア  噴射剤  LPガス(成分の詳細が判明しないため、ブタンガス50%、プロパンガス50%と仮定する。)
イ  噴射剤の混合割合及び充填圧力  混合割合は約90%、充填圧力は約0.3MPa
ウ  可燃性ガスの質量等  可燃性ガス(LPガス)の質量は、135gのうちの約90%で約120gとなり、その分を体積に換算すると約0.06m3となる。

(2)室内の条件

 室内の条件は、一般的な6畳間とし、間口2.7m、奥行き3.6m、高さ2.4m、容積23.3m3とし、気温は20℃とする。

(3)発火源

 発火源は、たばこを吸う際につけたライターの火とする。

(4)室内の爆発限界内に達した範囲

 爆発限界内に達した範囲について、次に掲げる条件下で今回の爆発の状況を関連させ考察する。  なお、爆発限界については、LPガスの成分のうち爆発下限界が低いプロパンガスの2.1%を基準とし、また、比重は空気より重いということを前提とする。

ア  局部的に爆発限界に達していた場合  「ガスパン遊び」をしている時は、その周りだけ局部的に爆発限界内に達し、その部分で爆発することが考えられるが、今回の爆発の威力をみると局部的な爆発とは考えにくい。
イ  室内全体が爆発下限界に達していた場合  室内全体(23.3m3)が爆発下限界に達するには、8本以上の制汗スプレーを全部放出する必要がある。
 今回の爆発にあてはめると、6人で「ガスパン遊び」をしていたとはいえ、8本分以上の制汗スプレーを全部放出したということは考えにくい。また、爆発の威力をみても、室内全体が爆発下限界に達していたとすればもっと被害が大きくなっていたと考えることができる。
ウ  一定の量が滞留していた場合  今回の爆発の発火源がたばこを吸う際につけたライターの火であることから、床面に座った状態でたばこに火をつけるときの高さを床面から0.6mと仮定する。LPガスは比重が重いため床面から徐々に上に向かって溜まっていくことを考慮すると、発火源の高さ0.6mの位置までの当室の容積は約5.8m3で、この部分を爆発下限界以上とするには、制汗スプレー約2本全部を放出することで可能である。ここでいう2本は普通に放出した場合の本数であり、ガスを吸うのがこの遊びの目的であることから体に吸収される分を加算したとしても約3本も放出すれば爆発限界内に入ると考えられる。
 本火災は、6人で「ガスパン遊び」をしており、6人個々が放出したガスの量を合わせると2、3本分(約240~360g)になっていた可能性が高い。

6 まとめ

 以上のとおり、「ガスパン遊び」についてご紹介しました。
 この遊びは、一部の子供たちが行っているものではありますが、遊ぶために必要な制汗スプレー等は子供でも手軽に手に入れることができることと、これといった入手に関する規制もないということから、今後この遊びが減っていくという要素は少ないように感じられます。
 「ガスパン遊び」をしている子供たちのほとんどは、今回のような爆発事故に至ることや、窒息死する可能性があるなどの危険性を理解しないままこの行為を行っていると思われ、消防としても機会を捉えて危険性を訴えていくべきではないでしょうか。