1 はじめに
この火災は、高速道路を巡回中の公団車両が、非常駐車帯に停まっている普通四輪駆動車のエンジン下部から炎を発見した。消防相互応援協定に基づいて出場した他市消防局の消火隊と、当消防本部から調査隊が出場した車両火災で、実況見分の結果を紹介する。
2 火災の概要
(1)発生日 | 平成16年7月22日 |
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(2)発生場所 | 堺市内の高速道路 南行車線 |
(3)出火車両 | 平成2年式 普通4輪駆動車7人乗 2,500cc ディーゼルターボオートマチック車 四輪駆動はパートタイム形式・ シフトレバー有 |
(4)焼損物件 | フロントデファレンシャル焼損。 同箇所周辺の電気配線若干熱損。 |
3 火災発生状況
火災を起こした車両は、6名乗車で会社の寮を5時20分頃に出発した。発生場所付近で、「ガタガタ」と車両が振動し、ボンネットより黒煙が出て、エンジンが停止したので、惰性にて非常駐車帯に停めた。
公団車両が巡回中に、非常駐車帯に停まっている車両のエンジン下部より炎が出ているのを発見、積載の消火器並びにポリタンクの水で初期消火を行い、指令センターに火災を通報した。先着の他市消防局の消火隊が鎮火を確認、発生場所が高速道路の非常駐車帯であるため、実況見分を管轄警察署で実施することとした(写真1参照)。
写真1
火災を起こした車両
4 実況見分者
- (1) 堺市高石市消防組合
消防本部警防対策課 調査担当者 - (2) 大阪府堺北警察署
- (3) 大阪府警本部科学捜査研究所
- (4) 大阪府警本部高速道路交通警邏隊
- (5) 国土交通省近畿運輸局大阪運輸支局
- (6) 自動車販売員、技術者
5 実況見分箇所
(1) 車両外周部及び室内 (2) 内燃機関
(3) 燃料系 (4) 排気系 (5) 駆動系
(6) 制御系 (7) 電気系
6 実況見分結果
(5)の駆動系でアンダーカバーを除去すると、フロントデファレンシャルに焼き痕跡が見分された。同箇所のオイル規定量は1.1リットルであるが、残存量は400㏄であった。フロントデファレンシャルを解体すると、大量の金属片が認められ、ドライブギアとピニオンギアに打滅痕が認められた(写真2~5参照)。
写真2
フロントデファレンシャル
写真3
焼き箇所の拡大
写真4
ドライブギア
写真5
ピニオンギア
また、前・後輪で異サイズのタイヤが装着されていた。
前輪 | ブリジストン P225/75R15 102S |
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後輪 | ヨコハマ 215/80R15 101S |
※ 前・後輪で銘柄・サイズは異なるが、左右は同じタイヤが装着されている。
7 タイヤの回転とフロントデファレンシャルの関係について
後輪タイヤの1回転における走行距離は2m20㎝で、前輪と比べて2㎝分多く回転することが確認された。
この前・後輪の回転差によりフロントデファレンシャル内のドライブギアとピニオンギア間で、回転差が生じるため、ピニオンギアが常時、無理にドライブギアを押し回す形態となり、一方的に負荷をかける状態となる。
後輪は、エンジンからプロペラシャフトを介し、ダイレクトに力が伝達されるが、前輪は完全に離脱できていないフロントデファレンシャル内のギアを介し、力が伝達されるため、走行速度・距離が増すにつれ、フロントデファレンシャル内のドライブギアとピニオンギアを打滅する結果となる。時間の経過に伴いフロントデファレンシャル内のフロントデフギアオイルが摩擦熱で過熱され発火する(4WD構造概要図参照)。
図 4WD構造概要図
8 出火原因の検討
- (1)四輪駆動で走行していること。
- (2)・後輪で異サイズのタイヤが装着されていたこと。
- (3)フロントデファレンシャル内のドライブギアとピニオンギアに打滅痕が認められたこと。
- (4)フロントデファレンシャル内のフロントデフギアオイルが摩擦熱で過熱され発火した状況が窺われること。
- (5)以上のことから、四輪駆動の形式(フル・パートタイム)に関わらず、前・後輪で異サイズのタイヤが装着された状態で走行を継続すると、フロントデファレンシャルに負荷がかかり、極めて高い確率で出火すると考えられます。
9 おわりに
実況見分を実施し、検証した結果、本件の車両火災は、使用者側の不備、つまり、四輪駆動車の特性の認識不足と判断できます。 昨今の車両は、一部の特定車両を除き、95%がAT車で、4輪駆動車はフルタイム形式が主流となってきていることから、自動車製造会社は四輪駆動の特性を広く知らしめ、使用者側はそれを十分理解する必要があると考えます。