消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(40)
車両火災地下鉄車両の出火事例について

1 はじめに

 横浜市営地下鉄は、藤沢市東部の湘南台から、戸塚、上大岡、関内、横浜、新横浜を経由して、横浜市北部のあざみ野までを結んでいる全長40.4㎞の路線であり、人口が増えつつある港北ニュータウン地区や横浜市南西部と横浜市の中心街を結び、一日の利用客が44万人と文字通り横浜市民の足として利用されている。
 このたび地下鉄車両で火災が発生したので、火災の概要、出火原因及び安全対策について紹介する。

2 火災の概要

(1) 発 生 日 平成17年10月27日
(2) 場  所 横浜市営地下鉄新横浜駅下り線
(3) 種  別 車両火災
(4) 焼損物件 車両床下部に設置された主電動機ツナギ箱及び内部配線

3 火災発生状況

 火災を起こした車両は、16時40分に地下鉄新横浜駅に到着したあざみ野発湘南台行き下り車両であり、同駅を発車したところ車両が停止し停電状態となった。司令管制室と連絡を取り車掌が乗客に対し動揺防止の車内放送をしていると、乗客の1人が車両の床から煙が出ていることを知らせに来たので火災が発生していることを認識した。
 119番通報にあっては、司令管制室からなされ、横浜市消防局ではポンプ車など25台を出場させたが、発見が早期であったことや交通局職員の適正な避難誘導及び消火活動により負傷者等の発生もなく火災は鎮火した。

4 焼損概要

 火災を起こした車両は1000形と呼ばれるタイプの通勤車両であり、横浜市営地下鉄開業に伴って1972年(昭和47年)に登場し、開業当初は3両編成、1977年(昭和52年)に5両編成、1985年(昭和60年)からは現在の6両編成となった。
 外観はステンレス製、集電装置(サードレール)から750ボルトの電源供給(直流)を受け、抵抗制御、直流モーターを搭載している。(写真1)
 性能については下記のとおり

出   力 120KW
最高設計速度 90Km/h
加 速 度 3.2Km/h/s
減 速 度 3.5Km/h/s(通常)
4.5Km/h/s(非常)

P64_1

写真1
火災を起こした1000形

 火災は6両編成のうちの前から4両目で発生しており、床に設置されている主電動機ツナギ箱及び内部配線に焼損が認められた。(写真2及び3)

P64_2

写真2
4両目の車内

P64_3

写真3
車両下部の状況

 焼損した箇所は、主電動機ツナギ箱及び内部配線である。
 ツナギ箱は各装置との電線を接続する745×330×75㎜ほどの四角い鉄製の箱であり、上部で6箇所の蝶ネジで蓋が閉じられている。内部には6本の電線が並列に配置され、2本が端子台、残り4本(圧着継手を介し)は塩化ビニール製の絶縁筒に保護され、さらに箱の縁部分で合成ゴム製の絶縁筒オサエで固定されており、電線はそれぞれ集電装置、高圧ツナギ箱、モーター、制御装置につながっている。(写真4、5及び6)

P65_1

写真4
ツナギ箱(上蓋を解放)

P65_2

写真5
同形との比較

P65_3

写真6
ツナギ箱内の焼損状況

5 出火原因の検討

  • (1)  金属製のツナギ箱の上蓋2箇所に溶融した燃え抜けが認められた。(写真4)
  • (2)  上蓋を押さえているボルト6本のうち1本が根元から溶断していた。(写真7及び8)

P65_4

写真7
ツナギ箱内の焼損状況(拡大)

P65_5

写真8
ツナギ箱内の焼損状況(絶縁筒を除去)

  • (3)  ボルトの溶断していた付近の絶縁筒及び絶縁筒オサエの焼けが強く認められた。(写真6及び7)
  • (4)  端子台にある電線のうち高圧ツナギ箱へ行く電線1本が溶断していた。(写真7右上赤破線部)
  • (5)  ボルト直近の電線配線は絶縁筒オサエで固定されていた部分から圧着継手の接続端子までの部分が焼損して心線が露出しており、心線内のより線同士が溶着していた。(写真8及び9)

P65_6

写真9
圧着継手の状況

(6)  焼損したツナギ箱内の絶縁物の絶縁抵抗を測定した結果、基準値以内であるものの他のツナギ箱と比較すると絶縁低下が認められた。

 以上のことから出火過程を考察すると、図1に示すとおり、ツナギ箱内に引き込まれた電線のうちモーターへ繋がる電線(写真7では上から3番目の電線)が強く焼損していたことと直近のボルトが根元から溶断していたこと及び付近の絶縁筒と絶縁筒オサエの焼損状況から、この付近で絶縁劣化による絶縁破壊が起こって、端子部からボルトへショート(図①)し、その火花によって周辺部の電線被覆、絶縁筒及び絶縁筒オサエを焼損させ、発煙発火したものと推測される。さらに燃焼過程においてツナギ箱内には熱が蓄積し、ツナギ箱内の電線(図1②)に絶縁被覆の破壊が起こって2度目のショートが発生し、ツナギ箱の上蓋と接触して溶断したものと推測される。

P66_1

図1

6 安全対策

 横浜市交通局は、ツナギ箱の絶縁性能や密閉性を強化する必要があるため次に挙げる処置を他の同形車両全箇所で行った。

  • (1)  ツナギ箱内の圧着継手に絶縁材を全面的に巻き付け、絶縁性能を強化した。
  • (2)  端子台にある電線の端子にも絶縁性の高いシール材を塗布し、絶縁性能と防塵性能を強化した。
  • (3)  ツナギ箱本体と上蓋との間にも絶縁性の高いシール材を塗って防水、防塵性能を強化した。

P66_2

図2

7 最後に

 1000形車両は、横浜市民の足として開業以来、親しまれ運行し続けた機種であるが、老朽化に伴い横浜市交通局では、交流モーターを搭載した3000R形へ更新中であり、平成18年度までに全車両について廃車する予定である。