消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(38)
建物火災茶香炉からの出火事例

1 はじめに

アロマテラピーは、ストレス解消法の一つとして人気の高い芳香療法ですが、鎮静効果や消臭効果もあるお茶の葉を熱して室内にほのかに香りを漂わせ、その香りを楽しむことのできるインテリアグッズとして茶香炉の人気も高まっています。
この火災は、茶香炉の火をつけたまま外出したところ、異常燃焼を起こして火災になったもので、再現実験の結果、当該茶香炉の形状と誤った使用方法によって火災に至ることが判明したため、製造業者に改善を要望し改善された事例です。

2 火災の概要

(1) 出火日時 平成14年4月 15時30分頃
(2) 覚知時間 平成14年4月 16時09分
(3) 鎮火時間 平成14年4月 16時57分
(4) 出火場所 神戸市内の13階建マンション
(5) 焼損程度 13階建マンションの5階1室約70㎡全焼損、他1室一部焼損、4室一部水損

3 原因調査の状況

3LDKである火元室の焼損状況は、リビングを基点として焼きしており、基点となったリビングは全体的に強く焼けており、特に壁沿いに置かれていたデザインラック付近の焼けが著しい状況でした。

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リビングの焼き状況

  • (1)  このデザインラック上には、アロマポットタイプのアロマテラピーの一種である陶器製の茶香炉を置いて使用していたとのことであり、これを裏付けするように茶香炉の破片が発掘されました。
  • (2)  茶香炉の置かれていた付近が早期に焼けていることから、この付近から出火した可能性が強く、火元家人からも「茶香炉の中にろうそくを入れて点火したまま、外出してしまった」という証言を得ました。
     現場調査の結果、デザインラック上で唯一火源になり得るのは、茶香炉内で点火したままになっていたろうそくの火だけでした。

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発掘された茶香炉の破片

4 茶香炉の状況

当該火災で使用していた茶香炉は、直径10㎝、高さ7㎝の香炉に似た陶器製で、正面にろうそくを入れる幅5.5㎝、高さ5㎝の窓と直径1㎝の通気孔が5箇所あり、つまみの付いた蓋をひっくり返し、裏面を皿として上に乗せて使用するものです。
この蓋をひっくり返した場合、蓋の上部についたつまみによって空間部分の高さが低くなり、約5㎝の高さしかありませんでした。

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ろうそくの芯と蓋のつまみの接近状況

5 カップ型ろうそくについて

市販されているカップ型ろうそくは、製品によって芯の長さや太さが微妙に異なり、炎の大きさも異なっています。
当該火災で使用していたろうそくは、安価で市販されている中国製のもので、芯が長く、炎も大きいため、空間の低い前記茶香炉で使用すれば、ろうそくの炎がつまみ部分に直接当たります。

6 茶香炉の使用状況

火元家人は「ろうそくのロウが板の上に漏れていやな臭いがしたので、弁当に使用するアルミ箔を敷いて使用し、当日は、前日使用したアルミ箔の上に新しいろうそくを乗せて火をつけた」と供述していています。
また、「茶香炉の上に乗せている皿に多量の煤が付くので、使用した後、毎回清掃している」という証言がありました。

7 再現実験の結果と出火のメカニズム

当該茶香炉の形状と使用形態が出火原因に結びつく大きな要因であると推察されましたが、茶香炉の周囲には燃えやすいものが何もなく、例えろうそくの火を消し忘れていたとしても、これから火災にはなり得ないと思われる状況でした。
そこで、火災時の使用状況を基にして再現実験を実施したところ、茶香炉内のろうそくが異常燃焼を起こして燃え上がり、炎の噴出す状況が確認できました。

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炎が激しく噴出している状況

さらに、実験を繰り返した結果、茶香炉から周囲に延焼拡大する状況が再現でき、火災現場と同様、周囲に何も燃えやすい物がない場合でも火災になることが確認できました。
火災に至るメカニズムは次のとおりです。

  • (1)  当該茶香炉に器状にしたアルミ箔を入れ、この中にカップ型ろうそくを入れて使用した場合、ロウの加熱が促進されてロウの蒸気が大量に発生し、この蒸気がろうそくの炎に引火して液面燃焼に移行します。
     また、蓋のつまみ部分に炎が当たることによって煤が塊状に付着し、この煤は自重で剥がれ落ちやすく、落ちるとカップ内に落下してロウを吸い、これが芯になって燃え出して、ロウの蒸気に引火して液面燃焼に移行する場合もあります。
  • (2)  液面燃焼に移行すると、急激に拡大した炎によって輻射熱も著しく増大してロウの蒸発が益々促進され、炎がさらに大きくなって茶香炉の内部で激しく燃焼します。
  • (3)  開口部から炎が噴出すとともに茶香炉内から流れ出たロウに着火して外部に延焼拡大して火災になります。

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漏れたロウに着火し外部に拡大中の状況

8 当該火災における問題点

(1)  使用方法の問題点
 茶香炉やアロマポットを使用すると、量の多い少ないはあるものの、底部にロウが溜まったり、敷板上にロウが流れ出たりするので、当該火災のようにアルミ箔を器状にしたものを敷いて使用すると、一見ロウが流れ出たりしないように想われます。
 しかし、熱伝導に優れたアルミ箔によってろうそくの炎の熱がアルミカップ全体に伝えられ、ロウの蒸発を促進するため、この様な使用方法は異常燃焼を起こし、火災になる危険が高い。

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器状にしたアルミ箔の使用状況

(2)  茶香炉の形状の問題点
 当該茶香炉は、蓋部分につまみが設置されている等で、ろうそくの炎と蓋との空間が他社製品よりも短いため、炎が直接つまみに当たった炎が横に広がり、炎の面積が増えることによって輻射熱が増大し、ロウの蒸発を促進させて液面燃焼に移行する危険性が高い。
 また、蓋のつまみ部分に煤が塊状に付着し、これが剥がれて落下することによって異常燃焼に移行する危険性が高い。

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塊状に付着した煤の状況

9 形状の変更等の改善を指導

神戸市消防局では、当該茶香炉からの火災を予防するため、茶香炉の製造業者に香炉の形状変更や取扱説明書に注意事項を明記する等の改善を要望したところ、蓋のつまみをなくし、香炉内に熱がこもらないように開口部を大きくした製品に改良され、取扱説明書にも火災危険に関する注意事項が明記されました。
また、他社製の茶香炉やアロマポット類についても同様の実験を実施した結果、他社の製品でも形状によっては、異常燃焼を起こすものが認められたため、経済産業省から一括指導をお願いしました。
この火災事例は、茶香炉の形状と誤った使用方法が原因で発生しましたが、一番大事なことは火を使用したままで、その場を離れたり、就寝したりしないということです。
やはり、これが火を使うときの基本です。

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改善前(左)と改善後(右)の状況

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改善前(左)と改善後(右)の状況