1 はじめに
平成16年1月、北九州市内の工場にて、大規模な爆発を伴う火災が発生しました。
工場での通常業務を行う中、突然発生した大規模な爆発でした。
当初は何が爆発したのか、なぜ爆発したのか疑問に思われたところですが、工場の事業内容、工場内における木粉の堆積状況及び大量の粉じんが常時舞っている状況等を考慮した結果、粉じん爆発が発生したものと考えられました。さらに、屋根、壁面の破損状況から、爆発は数回にわたって発生していることが疑われました。
今回は、なぜ粉じん爆発が発生したのか、現場見分状況に基づく考察及び爆発の可能性を立証するために行った実験等について紹介します。
2 事業所及び工場の概要
爆発火災の発生した事業所は、建設リサイクル法に対応した廃棄物処理事業として、廃棄された家具等の木製品を再利用し、製品化している事業所である。
工場では、廃材の木製品をチップ状にして再形成し、パーティクルボードと呼ばれる木質建材を製造している。(写真1参照)
写真1 パーティクルボード
3 火災概要
(1)出火年月 | 平成16年1月 |
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(2)出火場所 | 福岡県北九州市若松区 |
(3)火災種別 | 建物火災(写真2参照) |
写真2 工場の被災状況
(4)被災状況 | 焼損面積 4,700㎡ |
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(5)負傷者 | 4名 |
4 現場見分状況及び原因
(1) 工場内の数箇所に、屋根の吹き飛び及びシャッターの変形が見られる。
写真3 シャッターの変形
(2) 工場内及び工場の屋根に大量の粉じんが堆積している。(粉じんは火災前から堆積していた。)
写真4 堆積した粉じん
(3) 工場内には、原料となる木粉が圧送されるダクトが張りめぐらされている。(写真5参照)
写真5 工場内のダクト
(4) 原料となる廃棄された木製品には、釘等の金属片が付いたまま、工場ラインに流れている。(写真6参照)
写真6 原料に混入した金属片
(5) 放火及びたばこの不始末等の痕跡は見られない。
以上、(1)~(5)の見分状況等、様々な観点から検討した結果、火災は粉じん爆発によって発生したものと推定した。
5 実験及び結果
原因として考えられる粉じん爆発が、工場内の木粉で、実際に発生することを確認するため、以下のような実験を行った。
(1)小ガス炎による着火実験
・ 実験内容
工場内で採取した木粉3を、無機質断熱板上に半球状に置き、簡易ガスマッチの火炎を接触させ、着火の可能性を確認した。(写真7・8参照)
写真7 木 粉
写真8 接炎状況
・ 実験結果
接炎後、5秒で着火し、継続した有炎現象が確認された。(写真9参照)
写真9 燃焼状況
(2)粉じん爆発実験
・ 実験内容
工場内において採取した木粉2000 を、粉じん爆発実験装置に投入し、粉じん爆発の可能性の確認を行った。(写真10・11参照)
写真10 実験装置
写真11 投入状況
・ 実験結果
ガスバーナーに点火し、空気を噴出させると、爆発的な燃焼が確認された。(写真12参照)
写真12 燃焼状況
6 考 察
現場見分状況及び実験結果等から、粉じん爆発に至った過程を簡潔に説明すると以下のようになる。
- (1) 家具に付いた釘等の金属片が、除去されないまま原料の木粉に混入し、工程へ流れる。
- (2) 混入した金属片が原料の木粉とともにダクト内に圧送される。
- (3) 工程内には、数箇所に圧送用のファンがあり、金属片がファンの羽に高速で衝突することで火花が発生する。
- (4) その火花がダクト内の粉じんに着火し、ダクト内を高速で圧送される過程において威力が増し、工場内に張りめぐらされたダクト内を火炎が伝播する。
- (5) ダクト内を高速で伝播した火炎が密閉された装置に送られたところで、装置の内圧が上昇し、爆発、さらにその爆風で工場内に堆積した粉じんが舞い上がり、その粉じんにも着火、粉じん爆発を起こす。その後数回にわたって大規模な粉じん爆発を誘発する。
7 事業所に対する指導
本火災は、事業所側にいくつかの不備が重なったために、発生したものと考えられる。
よって、同種災害の再発防止対策として、事業所に対しいくつかの指導を行った。主な指導内容は以下のとおりである。
- (1)金属片等の異物除去の徹底
- (2)火花センサーと制御装置の連動
- (3)ダクト系統の分散化
- (4)粉じんの堆積を防ぐ掃除の励行
- (5)爆発の可能性がある装置を屋外に移動
- (6)作業員への安全教育の徹底
8 おわりに
今回は、粉じん爆発による火災という稀な事例を題材にしましたが、火災となった工場のように、環境対策や資源の有効利用を目的としたリサイクル工場は、近年、全国的にも注目され、多くの施設が建設されています。
リサイクルで事業所を成り立たせるには、コスト削減が大原則と考えられています。そのために、事業所の中には、これまでの工場にないような特殊な構造を持っているにもかかわらず、安全性への配慮に欠如した人員配置等をとっている事業所も見受けられます。
当工場でも、コストダウンを優先したことが防災意識の低下を招き、今回のような大規模火災をもたらしたと考えています。
しかし、今回火災となった工場は、九州で唯一の製造工程を持ったリサイクル工場であるため、大規模な火災発生によって事業を閉鎖するということは、リサイクル行政上の施策等様々な立場から難しい状況にありました。
そのような難しい状況の中、事故の再発を防ぐため、私たちにできることは、入念な原因調査を行うことだと思います。そして、その結果から得られる教訓を確実に事業所にも伝え、当該事業所ばかりでなく、多くの事業所に対しても防災意識の向上を喚起させることが必要と考えます。
リサイクルについては、資源の有効利用の面からも、これまで以上に取り組む必要があると思われますし、社会全体がリサイクル推進に向けてさらに活発に動いていくと考えられます。故に、そのような社会情勢への影響も考慮に入れると、私たちの行う原因調査は、改めて欠くことのできない重要な業務であると考えています。