消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(35)
建物ぼや火災防炎物品からの出火事例

1 はじめに

この度、当局において斎場内に設置された防炎性能を有する中袖幕が、ハロゲンライトの蓄熱により発火する火災がありました。
この種火災の予防については、平成9年7月に財団法人日本防炎協会に設置された「舞台幕火災調査委員会」の検討結果のまとめで、「舞台幕については、消防法に定められた防炎性能の基準に用いる試験方法は、火災初期での小火源の着火源に対して物品が燃え広がるかどうかを試験するものであるが、放射加熱による着火を主として想定しているものではないため、消防法の燃焼試験に合格した舞台幕であっても、過度に大きい照射熱量が与えられ、蓄熱が起こり得る場合には、燃焼が継続する場合がある。」と報告されている。
今回、その具体的危険性の検証のため、火災事例と同等のハロゲンライト及び防炎性能を有する幕を使用し着火実験を行った結果を紹介します。

2 火災の概要

(1) 出火年月 平成15年1月
(2) 出火場所 耐火造地上2階建て2階斎場内
(3) 火災種別 建物ぼや火災(斎場内の収容物一部焼損)

3 火災前の状況

  • (1) 火災の前日、斎場内を出入りしている業者が祭壇の後片付けをしている途中、中袖幕を端に寄せたため、ハロゲンライトのオブジェに覆い被せたものである。
  • (2) 火災の直前、斎場職員が施設見学のため、20分程度ハロゲンライトのオブジェのスイッチを点灯している。

4 発見、通報及び初期消火の状況

発見者は、自動火災報知設備のベルの鳴動と2階の火災の知らせる放送を聞き、2階の斎場内に駆けつけると、中袖幕部分から炎と煙が上がっているのを発見したものである。
通報者は、騒ぎに気付いた同僚が119番通報したものである。
初期消火者は、発見者から知らせを受けた同僚で粉末消火器を用いて初期消火したものである。

5 実況見分状況

  • (1) 斎場内のカスミ幕は、中袖幕を中心に両側の天井際に吊り下げられており、炭化及び表面焼けしている。また、中袖幕は、天井から床面まで吊り下げられており、ハロゲンライトのオブジェに覆い被された状態で下側部分が焼失し、天井に向かうにしたがい炭化している。
  • (2) ハロゲンライトのオブジェは、側面に反射鏡の細管があり、底部にハロゲンライトが取り付けられている。細管部分は、赤茶色に変色が認められ、ハロゲンライトは、ガード部分のみ黒色に変色している。
  • (3) 斎場内のカスミ幕及び中袖幕の使用状況について、関係者に確認したところ、1年間使用している防炎物品で、使用期間中、クリーニングに出していないとのことである。

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斎場内の焼損状況

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カスミ幕及び中袖幕の焼損状況

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ハロゲンライトのオブジェの焼損状況

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ハロゲンライトのオブジェから取り外したハロゲンライトの焼損状況

6 原因の概要からの実験

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ハロゲンライトのオブジェと中袖幕の復元状況

7 ハロゲンライトによる防炎物品への着火実験

(1) 実験ー1

新品の防炎物品(幕)と火災品(1年経過した物品)等の防炎物品の比較

  リン イオウ
新  品 100% 100%
火災品 106% 45%
未処理品 0% 0%

※新品の測定値(ネット)を100%とした場合

蛍光X線分析システム及び熱分析装置による防炎物品を鑑定した結果、防炎処理剤の成分であるリン、イオウの残存割合を測定した結果、イオウの減少か認められる。

(2) 実験ー2

ハロゲンライトの基礎データー

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熱電対測定位置

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12分間の測定結果

ガラスの表面温度は、他の位置に比べて温度が最も高く、最高温度は約267℃を示している。

(3) 実験ー3

新品の防炎物品(幕)1枚をハロゲンライトの上に被せる。
開始後、5分で煙の上昇を確認、炎は確認できない。10分後の終了時、幕はガードの跡と焼け焦げ縮んだ状態である。

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終了時の状況

(4) 実験ー4

1年経過している防炎物品(幕)1枚をハロゲンライトの上に被せる
開始後、5分で煙の上昇を確認、炎は確認できない。10分後の終了時、焼け焦げ一部炭化している状態である。

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終了時の状況

(5) 実験ー5

新品の防炎物品(幕)を折りたたんでハロゲンライトの上に被せる。
開始後、5分で白煙の上昇を確認、11分で激しい白煙の上昇を確認、14分で炎を確認、16分で高さ約90㎝の位置まで幕の中が燃え広がり、消火後、原形を留めている状態である。

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終了時の状況

(6) 実験ー6

1年経過している防炎物品(幕)を折りたたんでハロゲンライトの上に被せる。
開始後、6分で白煙の上昇を確認、9分で炎を確認、10分で高さ約90㎝の位置まで全体に燃え広がり激しく炎が拡大し、消火後、幕が炭化した状態で一部焼失し、原形を留めていない状態である。

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終了時の状況

(7) 実験ー7

新品の防炎物品(幕)の裾に有炎火源を近づける。
開始後、直ぐに若干の煙の上昇が認められ、終了時、幕が縮んだ状態で自己燃焼は継続していない。

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終了時の状況

(8) 実験ー8

1年経過している防炎物品(幕)の裾に有炎火源を近づける。
開始後、直ぐに若干の煙の上昇が認められ、終了時、ろうそく火状に炭化し、自己燃焼は継続していない。

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終了時の状況

8 実験結果

  • (1) 新品の防炎物品(幕)、1年を経過した防炎物品(幕)1枚をハロゲンライトの上に被せても着火に至らなかった。
  • (2) 新品の防炎物品(幕)、1年を経過した防炎物品(幕)を折りたたんでハロゲンライトの上に被せると、新品の防炎物品(幕)、1年を経過した防炎物品(幕)にこだわらず、着火し、炎が拡大した。
  • (3) 新品の防炎物品(幕)、1年経過した防炎物品(幕)の裾に有炎火源を近づけても自己燃焼は継続せず、燃え広がらなかった。

9 考 察

ハロゲンライトの上に新品の防炎物品(幕)及び1年を経過した防炎物品(幕)を折りたたんで被せ、照射熱量による蓄熱が起こり着火することを検証した。消火後、新品の防炎物品(幕)は原形を留めたが、1年を経過した防炎物品(幕)は、原形を留めないほどに焼けたのは、防炎薬剤の残存度合いよるものと考えられる。

10 その後の対策

予防部予防課調査係では、ハロゲンライトによる防炎物品への着火実験の資料を、当局指導課指導係へ情報提供し、その後、火災を未然に防止する為、市内葬儀場関係28事業所及び同様の火災危険が思慮される市内イベント会場となる10事業所あてに再発防止する勧奨文を、また、各消防署あて通知文を送付した。また、平成15年度公立学校防火会議においても、防火思想の普及に努めた。
今後、同種の出火防止を図るため、継続した火災予防広報を行うとともに、多種多様化する出火原因の立証に向けた実験、研究を積極的に実旋し、原因究明に役立てていこう と考えております。