消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(34)
電気火災電磁調理器(IHクッキングヒーター)による火災事例に ついて

1 はじめに

近年、生活環境の進展に伴い電化住宅が普及し、これによりエネルギ-もガスから電気へと変革しています。
そこで、本事例は各家電メ-カ-が安全性・高カロリ-を前面に打出した、電磁誘導過熱方式を採用した通称「IHクッキングヒ-タ-」による火災の立証及び危険性について検証した結果を紹介します。

2 火災概要

防火造、2階建専用住宅の台所の側壁及び電磁調理器を焼損したもので、ステンレス製片手鍋に天ぷら油約600㏄を入れ、右側IHヒ-タ-(過熱防止機能付)を強火力に設定したまま、その場を離れたため出火した。

3 実験使用機材

  • (1) 電磁調理器
    A社製クッキングヒ-タ-(過熱防止機能付)
    電源 単相200v、消費電力 2,500w(8段階火力調整)
  • (2) 使用鍋
    ・ステンレス製片手鍋
    ・専用鍋
    ・鉄製鍋
    ・アルミ製鍋
  • (3) 実験場所
    広島市総合防災センタ-燃焼実験室

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写真1 実験全体概要

4 電磁調理器の安全機能

  • (1) 過熱防止機能
    本体等が高温となったり、鍋底の温度が異常に上がると通電を停止する。
  • (2) 鍋無自動停止機能
    調理中に鍋をおろすと約30秒後、通電を停止する。
  • (3) 揚げ物鍋そり検知機能
    揚げ物温度コントロ-ル使用時、鍋底に約2㎜以上のそりがあったり、変形している鍋を使用すると通電を停止することがある。
  • (4) 切り忘れ防止機能
    左右ヒ-タ-使用時約1時間、ロ-スタ-使用時約20分経過すると、通電を停止する。

5 実験方法

(1) 実験1

  • ア 実験の条件
    火災立証のため関係者の供述をもとに、IHヒ-タ-上にステンレス製片手鍋に食用油600㏄を入れ強力火で加熱
    (環境:室温8.6℃・湿度58%)
  • イ 目 的
    IHヒ-タ-で加熱した場合の発火の有無及び過熱防止用サ-ミスタ(以下「サ-ミスタ」という。)の作動状況を確認する。
  • ウ 実験結果
    点火後電流計は10Aを示し、約3分後に油温が約290℃に達したが、サ-ミスタは作動せず4分37秒後(油温380℃)発火した。

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写真2 実験状況

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写真3 発炎状況

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図1 実験1の温度特性

(2) 実験2

  • ア 実験条件
    IHヒ-タ-上に専用鍋に食用油規定量(メ-カ-警告560㏄以上)以下の400㏄を入れ、強力火で加熱
    (環境:室温11.7℃・湿度47%)
  • イ 目 的
    IHヒ-タ-で加熱した場合の発火の有無及びサ-ミスタの作動状況を確認する。
  • ウ 実験結果
    点火後電流計は10Aを示し、約3分30秒後に油温が約240℃に達したが4分後に電流値が5Aに下がり、サ-ミスタが作動し油温も210℃付近でほとんど変化しなくなった。

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図2 実験2の温度特性

(3) 実験3

  • ア 実験条件
    IHヒ-タ-上に専用鍋に食用油規定量以下の200㏄を入れ、強力火で加熱
    (環境:室温9.4℃・湿度56%)
  • イ 目 的
    IHヒ-タ-で加熱した場合の発火の有無及びサ-ミスタの作動状況を確認する。
  • ウ 実験結果
    点火後電流計は10Aを示し、約3分30秒後に油温が約260℃に達し白煙が盛んに出たが、以後徐々に油温は下がり、電流値が4Aに下降し、サ-ミスタが作動し油温も180℃付近でほとんど変化しなくなった。

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写真4 実験3発煙状況

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図3 実験3の温度特性

(4) 実験4

  • ア 実験条件
    IHヒ-タ-上に鉄製鍋に食用油600㏄を入れ、強力火で加熱
    (環境:室温9.7℃・湿度48%)
  • イ 目 的
    鍋底に肉眼では確認できないわずかなそり凹(約1㎜)があるIHヒ-タ-対応の鉄製鍋を加熱した場合の発火の有無及びサ-ミスタの作動状況を確認する。
  • ウ 実験結果
    点火後電流計は10Aを示し、約3分30秒後に油温が約200℃に達し白煙が出て、以後徐々に油温は上がり、9分後には油温が約330℃まで上昇したが発火まで至らず、直後にサ-ミスタが作動し油温は下がり始めた。

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写真5 実験状況

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写真6 実験4発煙状況

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図4 実験4の温度特性

6 結 論

  • (1) 実験1では、関係者の供述によるステンレス製鍋及び同量の食用油を入れ実施した結果発火に至った。これは、関係者が油を加熱中に側を離れたことも問題であるが、鍋底の形状が2㎜以上のそりがあったため、IHヒ-タ-のトッププレ-ト中央に組込まれたサ-ミスタが鍋底温度を適確に感知せず、通電状態が続き発火したものと立証された。
  • (2) 実験2・3では、IHヒ-タ-専用鍋を使用し、食用油規定量(メ-カ-警告560㏄以上)以下の200・400㏄の油量で実施した結果、いずれも設定温度200℃を超え上昇したが、発火まで至っていない。
    今回は油量200㏄未満での実験は行っていないが、油量が少ないと条件によっては発火する可能性が考えられる。
  • (3) 実験4では、IHヒ-タ-対応鍋である鉄製鍋を使用し実施した結果、油温は330℃まで上昇しましたが発火までは至らなかった。この鍋は、肉眼では確認できないが触手で確認できる鍋底のわずかなそり(約1㎜)があり、サ-ミスタが鍋底温度を適確に感知せず、発火温度近くまで上昇したもので、条件によっては発火する危険性が考えられる。

おわりに

現在の電磁調理器は、ラジエントヒ-タ-とIHヒ-タ-のコンビタイプが主流で、揚げ物はサ-ミスタで温度コントロ-ルできるIHヒ-タ-を使っていますが、鍋の形状及び油量によって発火することが立証されました。
また、発火に至る時間も熱効率が高い分、従来の天ぷら火災の時間経過の常識では測れなくなってきました。
今回の実験は、火災原因立証が主となり、様々な想定による実験が行えず、結果は十分とはいえませんが、安全性の高い家電製品として各メ-カ-とも開発に力を入れています電磁調理器でも使用方法によっては、火災の原因となり得る可能性が有り、今後は住民一人一人が取り扱いを十分理解し使用することが、「天ぷら火災」を減少させる一つの鍵となります。