1 はじめに
今回は、通信販売等で環境に優しく、安全で急 速加熱できる暖房器具として人気の高い、ハロゲンヒ ーター の火災事例を紹介します。
2 火災事例
(1)火災概要
本件は、平成15年の正月2日、ハロゲンヒーター を中心にベッド、寝具、衣類等を焼損した部分焼火災 である 。
(2)現場の状況
(焼損状況)
(床面の焼損状況)
- (ア) 強い焼けがハロゲンヒーター付近に限られ、ハ ロゲンヒーターはガード及び反射板の金属部分のみ残 存して いる。
- (イ) 床面に円形状の焼けがあり、付近に溶融した衣 類等が見分される。
- (ウ) 他に火源となるものがない。
- (エ) 関係者からの説明
(3)関係者の供述
居住者の説明によると、「深夜帰宅して、2階自 室で着替えをし、脱いだ衣類をベッドの布団の上に置 いたま ま、布団を暖めるためにハロゲンヒーターの電源を入 れて、2 階から1階洗面室に降りて洗顔等をしました。約15分後 、自室 に戻ろうと階段を上がると自室から煙と炎が見えたの で、自 宅の電話で119通報しました。煙草は吸いません。」と のこと であった。
(4)原因概要
関係者の供述及び現場状況から、火災の原因を 「ハロゲンヒーター」に絞り込み、右記写真のとおり 現場イ メージを再現し、燃焼実験を行うものです。
(現場イメージ図)
3 燃焼実験
(1) 実験時期 | 平成15年8月~10月 |
---|---|
(2) 実験場所 | 消防学校 |
(3) 実験の内容と方法 | ア (実験-1) → ハロゲンヒーターの構造及び安全装置並びに温度測定 イ (実験-2) → 衣類等をハロゲンヒーターガードに接触した状況 ウ (実験-3) → 衣類等をガード部分から内部に差し込んだ状況 エ (実験-4) → ハロゲンヒーター本体の燃焼状況 |
(4) | 実験に使用したハロゲンヒーターは、り災ハロゲンヒ ーター と同型の物品である。 |
4 実験結果
(1)実験-1
ハロゲンヒーターを分解して、器具の構造を確 認するとともに、電熱部分の温度測定を行う。
ア 構造及び安全装置
消費電力~400W及び800W製造~台湾製
(ハロゲン球)
(台座の裏側)
イ ハロゲンヒーターの温度測定
2箇所で測定
ハロゲン球付近と反射板
4分~4分30秒で最高温度に達する。
消費電力400W | 消費電力800W | |||
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時間経過 | ハロゲン球 | 反 射 板 | ハロゲン球 | 反 射 板 |
15秒 | 280℃ | 45℃ | 565℃ | 41℃ |
1分 | 317℃ | 53℃ | 995℃ | 65℃ |
4分 | 573℃ | 68℃ | 1192℃ | 101℃ |
4分30秒 | 589℃ | 65℃ | 1225℃ | 98℃ |
5分 | 582℃ | 64℃ | 1200℃ | 96℃ |
(2)実験-2
ア 衣類等をハロゲンヒーターガードに接触
衣類(ポリエステル65% 綿35%)をハロゲンヒ ーターガードに接触させ温度測定及び着火状況を確認 する。
消費電力800W | ||
---|---|---|
時間経過 | 化学繊維接触面 | 反射板 |
3分 | 105℃ | 284℃ |
11分30秒 | 133℃ | 373℃ |
15分 | 123℃ | 341℃ |
実験-1の温度測定に比べ、11分30秒で最高温度 に達したが、火災事例の15分間では、衣類に焼けの変 化は生 じなかった。
イ ハロゲンヒーターガード全体を衣類で覆う。
(温度測定は、ガードと衣類との間 消費電力は800W) (室温28.2℃)
時間経過 | 温 度 | 状 況 |
---|---|---|
1分30秒 | 117.5℃ | 衣類の水蒸気の臭いあり。 |
2分30秒 | 154.6℃ | 衣類の水蒸気が発生する 。 |
5分 | 213.6℃ | 5分30秒に、薄い 白煙及 び焦げ臭い臭いあり。 |
6分 | 228.2℃ | 本体のガード後方が極端に熱くなる。 |
7分35秒 | 240.5℃ | 衣類の焼け焦げによる変色を確認 |
温度センサーが感知し、温度ヒューズが切れ自動的に 電源が 切れる。 |
(3)実験-3
ア 衣類等を浅く差し込む。
15分間変化なし。
イ 衣類等をハロゲン球直近に差し込む。
数秒で着火する。
(4)実験-4
ア ハロゲンヒーター本体の燃焼状況
着火した衣類が落下したものと仮定し、台座部分に衣 類を置 き、着火する。
(30秒経過)
他の衣類に延焼する。
(1分58秒経過)
台座に延焼する。
(4分42秒経過)
上方に延焼する。
(5分52秒経過)
支柱が折れ、黒煙が噴出する。
(9分32秒経過)
全体に延焼する。
(10分14秒経過)
消火状況。
イ 実験と現場の残存物を比較する。
(ア) 反射板の状況
焼損状況は、どちらも支柱付近がV字型である。
(イ) 床面の状況
(現場)
(実験)
どちらも円形状で同様な焼けである。
5 考 察
4回の実験の結果、実験1~3のとおり、安全装置が整 い衣類 等がハロゲン球直近に至らなれれば、衣類等に着火す る恐れ が低いことが確認されたが、実験-4のとおり、残存物 及び床 面の焼損状況並びに延焼の時間経過から、ハロゲンヒ ーター は、台座付近から上方に延焼したのは明らかである。 このこ とから、本件火災は、ベッド上の衣類等が、ハロゲン 球付近 で着火し、台座の方向に落ち、ハロゲンヒーター及び ベッド 方向に延焼拡大したと考察される。
6 今後の教訓と課題
家庭内で使用されている電気、ガス及び石油のエネル ギー のうち、電気が最も安全なものと考えられています。
近年、急速に普及しているハロゲンヒーターは、ガー ドの 隙間が1㎝足らずで、しかも、ハロゲン球が中央部の遮 熱板に 格納されているため、可燃物がガードの隙間から入っ て中央 部のハロゲン球に接触することは、通常、考え難いこ とでは あるが、本来の使用方法とは異なる使用を行い、条件 さえ整 えば出火に至る危険性を再確認できた。