消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(30)
電気火災「ドリンク用冷蔵庫からの出火事例」について

1 火災の概要

(1) 出火年月 平成14年9月
(2) 出火建物 耐火造11階建共同住宅
兼店舗の1階店舗(薬局)
(3) 焼損程度 ぼや(店舗内において、冷蔵庫の配線等が若干焼損)

2 聞込み状況

薬品店経営者は『店舗内で椅子に座っていたら、フロンガスの臭気がすると同時に「ドカン」と音がして冷蔵庫の下部付近から赤い炎が出ました。バケツ水3杯で消火をした後、電源コードを抜きました。煙が店舗内に充満していたので苦しくなって外へ出て119番通報しました。』と供述している。

3 設置状況

店舗内のカウンターに左側面を接して置かれた状態で使用されていた(写真1)。

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写真1 店舗内に設置の状況
①ドリンク用冷蔵庫(前面)
②カウンター

4 理化学試験依頼

管轄署から、焼損した冷蔵庫の出火原因究明のため理化学試験依頼があり、当該冷蔵庫を本校、防災研究係において調査した事例を紹介します。

試験試料

ドリンク用冷蔵庫

定 格 電 圧 AC100V
コンプレッサ定格電流 50Hz 4.46A
60Hz 3.08A
コンプレッサ定格出力 150W
製 造 年 月 1988年12月

5 現物調査

(1)試料の左ルーバに綿ぼこりが付着した状態であった(写真2~4)。

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写真2
試験試料
① 前面 ② 右ルーバ

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写真3
試験試料
① 背面 ② 左ルーバ

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写真4
① 左ルーバ ② 綿ぼこり

(2)四面の金属板及び左右ルーバを取り外すと、凝縮器の放熱フィンに綿ぼこりが付着した状態であった(写真5)。

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写真5
左ルーバー等を取り外したところ
①凝縮器の放熱フィン
②綿ぼこり

(3)コンプレッサヘッド付近に潤滑油の付着が見られ、冷媒が庫内からコンプレッサに戻る吸入パイプの断熱材(樹脂製)や配線が焼きした状態であった(写真6、7)。

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写真6 機械室(前面)
①コンプレッサ
②吸入パイプ
③凝縮器

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写真7
①コンプレッサ
②吸入パイプ

(4)機械室右側面に設置されている温度調節器のダイヤルは、7(最低温)の状態であった(写真8)。

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写真8
温度調節器

(5)機械室背面に設置されている電装箱に異状は認められなかった(写真9、10)。

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写真9 機械室(背面)
①電装箱

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写真10
電装箱(内部)

(6) コンプレッサヘッドのカバー(樹脂製)が溶融しており(写真11)、カバーを取り外すと、コンプレッサヘッドの端子棒3本の内1本の絶縁材(ガラス系)が破損し、端子棒が抜けPTCサーミスタ(半導体素子)のホルダー側にささった状態であった(写真12~14)。

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写真11
コンプレッサヘッド
①カバー

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写真12 コンプレッサヘッド
①端子棒
②PTCサーミスタのホルダー
③オーバーロードリレー
④端子棒(抜けたもの)

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写真13
コンプレッサヘッド
①端子棒
②端子棒が抜けた所

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写真14
①PTCサーミスタのホルダー
②オーバーロードリレー
③端子棒(抜けたもの)

(7)写真15は端子棒(抜けたもの)。

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写真15
端子棒
(抜けたもの)

(8)PTCサーミスタとオーバーロードリレーをカバーから取り外し見分すると(写真16)、PTCサーミスタ内部から発熱した痕跡は認められず(写真17)、オーバーロードリレーの各接点は、溶融した状態であった(写真18~24)。

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写真16
①PTCサーミスタのホルダー
②オーバーロードリレー

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写真17
PTCサーミスタのホルダー

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写真18
オーバーロードリレー (内部)
①固定接点 ②可動接点
③バイメタル ④ヒーター

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写真19 バイメタル
①可動接点A ②可動接点B

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写真20 可動接点A
(顕微鏡撮影,×32倍)

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写真21 可動接点B
(顕微鏡撮影,×32倍)

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写真22
①固定接点A ②固定接点B

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写真23 固定接点A
(顕微鏡撮影,×16倍)

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写真24 固定接点B
(顕微鏡撮影,×16倍)

6 調査結果

  • (1) 吸入パイプの断熱材(樹脂製)や配線が焼きした状態であったこと。
  • (2) 左ルーバ及び凝縮器の放熱フィンに綿ぼこりが付着していたこと。
  • (3) コンプレッサヘッドのカバー(樹脂製)が溶融しており、コンプレッサヘッドの端子棒3本の内1本の絶縁材(ガラス系が破損し、端子棒が抜けPTCサーミスタのホルダー側にささった状態であったこと。
  • (4) 温度調節器のダイヤルが、7(最低温)の設定であったこと。
  • (5) オーバーロードリレーの各接点が溶融した状態であったこと。

以上から、配管内を循環する冷媒(潤滑油を含む)は、左ルーバ及び凝縮器の放熱フィンに綿ぼこりが付着しているため放熱できず、高温のまま循環することとなり、庫内があまり冷えない状態であったため温度調節器のダイヤルを7(最低温)に設定していたと考えられる。この状態ではコンプレッサは常に過負荷運転となり過熱し、保護装置のオーバーロードリレーが頻繁に作動して、接点が溶融したもので、長期疲労や振動のためコンプレッサヘッドの端子棒(1本)の絶縁材(ガラス系)が破損し、そこから高温、高圧の冷媒(潤滑油を含む)が噴出し発火、コンプレッサヘッドのカバー(樹脂製)を溶融させ、吸入パイプの断熱材(樹脂製)や配線を焼損させたものと推定される。

7 備 考

  • (1) オーバーロードリレー(過負荷リレー)
    バイメタルとヒーターを組み合わせたもので、コンプレッサが過負荷運転になると運転電流が増加し、ヒーターの発熱が大きくなる。また、コンプレッサヘッドに取り付けているのでコンプレッサの温度(熱)を間接的に感知する。オーバーロードリレーは、両者の熱を重ね合わせ作動させ、運転を遮断させる。一般に運転休止後数秒~数十秒で自動復帰する。
  • (2) PTCサーミスタ(半導体素子)
    PTCサーミスタは温度が高くなるにつれて、その抵抗値が増大する素子で、電流が流れると素子の自己発熱により温度が上昇して抵抗値が増加し、PTCサーミスタに流れる電流が小さくなり始動用コンデンサの働きを停止する。