1 火災の概要
(1) 出火年月 | 平成14年1月 |
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(2) 出火建物 | 耐火造4階建ての事務所 |
(3) 焼損程度 | ぼや(ガス吸収式冷温水機1台及びパンフレット28,200冊が焼損) |
(4) 設置年月 | 平成9年3月 |
(5) 火災の状況 | この火災は、1階ボイラー室に設置されたガス吸収式冷温水機の故障により過熱し発生した火災である。 ボイラー室内で焼損が確認できる箇所は、ガス吸収式冷温水機に接して積み重ねられていたパンフレット及びガス吸収式冷温水機である。 (写真1参照) |
写真1 ボイラー室内の状況
2 ガス吸収式冷温水機の焼損状況
(1) 冷温水機の外観
冷温水機本体を覆っている外部パネルのうち、焼けにより変色が確認できる箇所は東側面のみであり、北側、西側及び南側面については、外部パネルの焼け及び変色はない。(図1・写真2参照)
また、南側面に設置されているマイコン制御盤も焼損はない。
赤色部分が、白色に変色した位置を示す
図1 ガス吸収式冷温水機 外観図
写真2 外部パネルの変色状況
(2) 冷温水機本体の状況
外部パネル2枚を取り除き見分すると、外部パネルが変色している箇所に接している部分にはアルミニウム製断熱材のグラスウールで覆われた高温再生器が設置されている。 断熱材を取り除き高温再生器を見分すると、全体が茶褐色に変色しており、特に後部煙室の部分は黒く変色し焼けが強く高温再生器が膨張している。(図2.3・写真3参照)
写真3 外部パネルを取り除いた状態
図2 ガス吸収式冷温水機 (前面)
外部パネルを取り除いた状態
図3 ガス吸収式冷温水機 (後面)
(3) センサー及びサーモの状況
冷温水機本体には異常が発生し温度が上昇した場合、運転が自動停止するよう各部にセンサー及びサーモの安全装置が取り付けられている。
名称と作動温度は次のとおりである。
- ア 煙管サーモ 設定温度300度で作動
- イ 排ガスサーモ 設定温度300度で作動
- ウ 高温再生器液面センサー 設定温度170度で作動
- エ 後部煙室サーモ 設定温度170度で作動 (2箇所設置されている)
高温再生器本体上部に設置してある、液面センサー(高温再生器溶液温度用)と前部煙室に設置されてある排ガスサーモ(高温再生器排ガス温度用)の配線は、被覆が焼失し一部が黒く炭化している。
(4) 後部煙室の状況
高温再生器と後部煙室はつながっており、後部煙室を覆っている断熱材の焼けはなく、2箇所設置されている後部煙管サーモにも焼けはない。
(5) 液面制御装置の状況
高温再生器の上部に取り付けてある液面制御装置は、吸収液(臭化リチウム)の循環量をフロートで調節する装置であり、吸収液はなく、内部は空の状態である。(図4・写真4参照)
写真4 冷温水機本体
図4 高温再生器 断面図
(6) 出入口パイプの状況
高温再生器側面に設置されている溶液の入口パイプと出口パイプは、高温再生器に沿って湾曲し茶褐色に変色している。
高温再生器のうち焼けが最も強い箇所は中央溶接部がめくり上がり溶液の入口パイプと接触している。
3 関係者の供述内容
- (1) 火災が発生した前日の夕方、職員Aは上司からの指示により、「午後4時30分ごろボイラー室に行きボイラー操作盤の運転スイッチを切りました。」と供述している。
- (2) 職員Bは、「午後5時の退庁時、廊下側のボイラー室のドアを開けて見たら音がしていなかったので、ボイラーは運転を停止していると思い、ドアに鍵を掛けて帰りました。」と供述している。
4 最先到着隊の状況
ボイラー室から煙が噴出し、ボイラーは運転中であったことを確認している。
5 出火原因
- (1) 消防隊が現場に到着しボイラー室内を確認したときは、ボイラーは運転音がしていること、また、ボイラーに放水してもボイラー周囲の温度が下がらず近づくことはできないことから、ボイラーは継続的に運転されて火災が発生していること。
- (2) 冷温水機の外部パネルは、東側のみが変色しており、その部分は高温再生器の胴体が膨張し、臭化リチウム溶液の出口パイプ及び入口パイプを湾曲させて外部パネルに接触したものと認められること。
- (3) 冷温水機の高温再生器は、通常燃焼であれば煙道(煙筒)で約1,000度を越えないで運転し、バーナの燃焼ガスが後部煙室を約250度で煙管を通って前部煙室から排ガスとなって排出する仕組みで、その煙管中で臭化リチウム溶液を加熱し冷媒を蒸発(再生)させる熱交換器であり、溶液そのものが凝固することはないが、見分時に高温再生器の液面制御装置内では結晶体になっており、かつ、フロートが下がってロック状態になっている。
さらに、煙道(煙筒)上部に設置してある煙管99本のうち、東側の数本が外部パネル側に歪んでいる。 - (4) 冷温水機の高温再生器には各部にセンサー及びサーモが設置されてあり、煙管サーモ及び排ガスサーモが300度、高温再生器液面センサーが170度、後部煙室サーモが170度で、それぞれ温度が上昇すると強制的に停止させる仕組みであるが、停止せずに運転状態が継続し過熱している。
- (5) 結論
火災発生前日の午後4時30分ごろボイラーを停止させ、かつ、午後5時最終確認者がボイラー室のドアを開け音がしていなかったので、ボイラーは運転を停止していると思い、ドアに鍵を掛けて退庁しているが、火災の発生は事実であることから、停止したボイラーが何らかの要因により運転状態となったことは、明らかである。
最先到着隊がボイラー室内に進入し確認した結果、ボイラーは運転中であったことは、冷温水機が機械的または電気的な原因によりボイラーの燃焼が継続したと考えられる。
これらのことから、燃焼が継続する要因としてバーナコントロールボックス内に設置されている配線及び端子台で部分的な接触が生じ、燃焼信号が停止とならなかったことにより、ガスバーナのみの単独運転となり、各部に設置されているセンサー及びサーモも作動せず強制停止がされない状態で、燃焼が継続、他の機器も停止状態であったことで、高温再生器内の溶液だけが加熱され結晶化し、さらに、熱を吸収する溶液が結晶化となったことで、高温再生器胴体が過熱状態になり膨張した胴体が外部パネルに接触し、冷温水機の周囲に積み重ねられていたパンフレットが入ったダンボール箱に着火したものと推定する。