消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(23)
化学火災「粉末油脂の自然発火」火災について

1 はじめに

今回は,工場内において,スプレードライヤー内部の油脂塊が,送風されていた熱風により加温され発火し,周囲を浮遊する粉末油脂に着火爆発した事例について,ご紹介いたします。

2 火災概要

(1)出火年月 平成11年6月
(2)出火建物 鉄骨スレート張トタン葺
4階建,粉末油脂工場
延べ面積 4,420㎡

精製パーム油を主成分とした液状の原料から製品である粉末油脂を製造する工場であり,この液状の原料をスプレードライヤータンクの上部から霧状にて放射し,熱風(250℃)にて乾燥させて粉末油脂を作り,下部から製品を回収する。(図面1)

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図面1

(3)火災の状況

本件火災は,建物4階に設置されているスプレードライヤー内で出火し,タンク内部の空気の急激な熱膨張により,非常用内部圧力開放装置が作動し,爆発音とともにその部分から炎及び煙が噴き出したもので,床面積4㎡,スプレードライヤー1基を焼損した。

3 焼き状況

(1)建物外部の状況

4階の東側に設けられた扉(スプレードライヤーに設置されている非常用内部圧力開放装置)の上部が黒く煤けけている他に焼けは認められない。

(2)建物内部の状況

1階及び2階に焼けは認められない。
3階に設置されているコンベアフードの焼き変色及びスプレードライヤーの底部付近が黒く煤けている他に焼けは認められない。

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写真1
建物4階東側の状況

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写真2
3階スプレードライヤー底部の状況

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写真3
3階コンベアフードの状況

4階の作業場にはほとんど焼けは認められないが,スプレードライヤーに付属する放散室内に設置されていたエアーカーテン発生器が溶解しているとともに放散室内が黒く煤けている。

(3)スプレードライヤー内部の状況

スプレードライヤーの外面には,ほとんど焼けは認められない。
4階に設置されているスプレードライヤー側面の点検口からスプレードライヤー内部を確認すると,上部に取り付けられているスプレーノズル4本の内,1本に黒く焼けた固形物の付着及びノズル上部に表面が白く灰化した固形物が,扇状に付着しているのが認められる。 さらに,スプレードライヤー内部の側面及び底部は黒く煤け変色している。

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写真4
4階放散室内に設けられたエアーカーテン発生器の状況

4階の作業場にはほとんど焼けは認められないが,スプレードライヤーに付属する放散室内に設置されていたエアーカーテン発生器が溶解しているとともに放散室内が黒く煤けている。

(3)スプレードライヤー内部の状況

スプレードライヤーの外面には,ほとんど焼けは認められない。
4階に設置されているスプレードライヤー側面の点検口からスプレードライヤー内部を確認すると,上部に取り付けられているスプレーノズル4本の内,1本に黒く焼けた固形物の付着及びノズル上部に表面が白く灰化した固形物が,扇状に付着しているのが認められる。
さらに,スプレードライヤー内部の側面及び底部は黒く煤け変色している。

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写真4
4階放散室内に設けられたエアーカーテン発生器の状況

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写真5
噴霧ノズル周囲の状況

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写真6
スプレードライヤー内面の状況

4 実証試験

今回の事例では,粉末油脂の固形物が熱風により加温され,時間経過とともに酸化し,その酸化熱の蓄積により発火したと考察されることから,次のような実証試験を行った。

(1)実証試験概要

粉末油脂固形物の発火の有無及び発火に至る経過を確認する。
スプレードライヤー内部において,次の事項が発火の有無を決定する要素として考えられる。
なお,火災発生当時の状況は以下のとおりである。

熱風温度 250℃
熱風風速 20m/sec
試験体水分量(固形物の水分量) 不明
  • ア 熱風温度
    ドライヤーによる加熱温度を変化させる。
    (150~300℃,Step 50℃)
  • イ 熱風風速
    ドライヤーによる加熱風速を変化させる。
    (10~30m/sec,Step 5m/ sec)
  • ウ 水分量
    試験体の水分量を変化させる。
    (0~50%Wt,Step 10%Wt)

(2)実証試験結果

試験は数回行い,発火した場合,発火しなかった場合,及び試験終了後に発火が確認された場合の代表的な経過は,次のとおりである。

  • ア 発火した場合
    • ・加熱開始後,熱風の風圧により熱風と試験体の接触面が筒状となり,試験体内部を熱風が通過するような状況になる。
    • ・熱風と接触している試験体表面が固化し,変色し始める。
    • ・熱風に接触している試験体表面の変色が進み,黒色となるとともに,パーム油臭が発生する。
    • ・試験体の固化が熱風に接触している試験体表面の周囲にも起こり,固化が起こった付近及び蒸発皿の底部に油状の液体がたまる。

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写真8

  • ・白煙を生じ始め,時間経過とともに白煙の発生量は増加する。
  • ・筒状の内部に赤熱した部分が見られた直後,激しい炎を伴う燃焼が確認される。
  • ・試験中止のため,送風を停止しても燃焼は継続する。

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写真9

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写真10

  • イ 発火しなかった場合
  • ・熱風と試験体の接触面は平面的な状態で固化し,変色し始める。
  • ・熱風に接触している試験体表面の変色が進み,黒色となるとともに,パーム油臭が発生する。
  • ・試験体の固化が熱風に接触して表面周囲にも起こり,固化が起こった付近及び蒸発皿の底部に油状の液体がたまる。
  • ・白煙を生じ始めるが,さらに,15分間継続してもこの後の変化は起こらない。
  • ウ 試験終了後,発火した場合
  • ・15分間の試験において発火が確認されなかったが,熱風が接する位置を試験体の固化,変色した部分の脇に変えることにより,白煙の発生量が急激に増加する。
  • ・激しい炎を伴う燃焼が確認される。
  • ・試験中止のため,送風を停止しても燃焼は継続する。

(3)試験結果の考察

試験体(粉末油脂原料の水分量)及び熱風の状況変化が発火の有無に大きく影響することはなく,むしろ試験体と熱風の接触状態が発火の有無に大きく影響することが確認された。
試験中に観察された試験体の固化,変色は,熱風による加熱により,試験体に含有する水分の蒸発とともに試験体に含有される第2成分(コーンシロップ,レシチン)が固化し,継続する加熱により変色したものであると推測される。
さらに,試験体の主成分であるパーム油が,加熱されている部分の周囲から分離している状況が観察されている。
このことから,試験体を熱風と平面的に接触させた場合,加熱表面の固化,変色時に,パーム油が分離し,加熱部分からその大部分が周辺へ流出すると推測される。
その結果,パーム油が発火点及び引火点に達することはないと思われる。
これと比較して,熱風の風圧で熱風と試験体の接触面が筒状となり,試験体内部を熱風が通過する状況となった場合は,接触面の上方で分離したパーム油は,加熱され続けている接触面へ継続的に流出することとなる。
この場合,接触面へ流出したパーム油は,引火点へ達し,火源が存在すれば引火することが推測できる。
さらに,今回の試験で,発火の直前に加熱表面の赤熱が確認されている。
これは,固化した成分が炭化し,熱風の送風により,過給気状態となり,第2成分の固形物の酸化反応による熱が蓄積されたものと推測できる。
また,試験体と熱風が平面的に接触した場合,発火は確認されなかったが,接触面を移動させると,固化,変色部分から分離したパーム油が多く存在する部分を加熱することとなり,接触面が筒状となった場合と同様の現象が起こったと思慮される。
このことから,粉末油脂原料が熱風により加熱された場合,熱風の温度が主成分の発火点に達していない場合であっても,引火現象により発火することが考察される。

5 まとめ

本件火災発生当時は,スプレードライヤー内部の噴霧ノズル取り付け部の緩みにより,粉末油脂原料が漏れ,加熱により固化していた状況が確認されている。
これは今回の試験で確認された状況と同様であったと思われる。
また,粉末油脂原料の漏れは継続的に発生しており,実証試験条件よりもパーム油の分離及び炭化固形物との接触は容易であると思慮される。
このことから,本件火災の発火源は,自然発火となるが,ごく微細な現象に目を向けると,一時的な現象として粉末油脂の第2成分であるコーンシロップ等の炭化物の過給気下による酸化発熱であり,二次的な火源として粉末油脂の主成分であるパーム油蒸気の引火であることが考察された。