1 はじめに
北海道内は,強い寒気団の居座りにより日中でも気温が上がらない状態が続き,日常の生活にも影響を受けたところであります。
札幌市内においても1,2月中の平均気温はー5.6℃で,平年より2℃近くも低い状態が続き,市民も例年と比較し一段と厳しい寒さとの戦いの連続でありました。
この異常気象によって,道内では水道管の凍結が相次ぎ,札幌市内だけでも1,2月中に2万件を超える状態となりました。
このような中で,札幌市内においては水道管凍結の解氷作業に伴っての火災が連続して6件発生する状況となりました。
この種の作業方法は,灯油や電気ストーブによる室温の上昇,さらには,プロパンガスバーナーや電気溶氷機等による局部加熱をさせる方法で解氷を行っており,過去10年間,作業時の火災は発生していませんでした。
今回,水道管凍結解氷に起因した札幌市内の火災のうち,電気溶氷機からの出火事例について,ご紹介いたします。
1 火災概要
国産乗用車で外出,2時間半後に自宅前の道路に戻り,アイドリング状態で停車中,車内でメモをしているときに助手席から白煙が上がりシートの下部が燃えだしたもの。運転者は危険を感じて逃げ出し,初期消火は行われていないが,間もなく自然鎮火している。
2 電気溶氷機による出火事例
(1) 火災概要
出火年月 | 平成13年1月 |
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出火建物 | 防火造地下1階地上2階建て 延べ498m²の8住戸入居用 共同住宅 |
焼損程度 | 共同住宅1階の住戸の天井裏から出火し,天井裏や壁内,さらには住戸内等,床面積で31m²,表面積で35m²を焼損した。(別添写真1参照) |
(2) 出火時の状況
この火災は,共同住宅の居住者が水道管を凍結させたため,依頼された水道修理業者が電気溶氷機を使用して,地下1階車庫内の水道管立ち上がり部分から順次,洗面所,風呂場及び便所等への系統配管の解氷作業を行っている最中に発生したもので,きな臭さに気付き,居室の天井材を破壊し確認の時点では,既に天井裏全体に拡大していた状態であった。
(3) 現場調査の結果
実況見分時,出火した居室の天井面は,石膏ボードやグラスウールが消火作業時に除去されており,野縁等の天井支持材や2階の床裏材が露出している状況であった。これらの天井裏材は,全体に渡って焼損しており,ほぼ水道管に沿って粗い炭化模様が認められる。
各間仕切りの壁内も,小屋裏部分まで焼損が及んでいる状態であった。さらには,水道管の表面を覆っている保温材もほとんが焼失し,配管自体も受熱変色している。この配管を固定している金属製の応用バンドは,端部分が隣接する配管と接触し,双方の接触部分が白色に受熱変色している。
この天井裏の水道管は,給水用の鉄管2本と給湯用の銅管が3本の計5本で構成され,居室内の縦管から天井裏を経由し,それぞれ台所や洗面所,風呂場等へと配管されており,2本の水道管は風呂場内の混合水栓に接続されている。これらの配管は,管ごとに1,2箇所ずつ応用バンドと呼ばれる金属製の固定金具(成分は亜鉛90%,鉄10%)を使用して2階の床裏から吊るした状態で支持固定されている。また,管の表面には保温効果を高めるため,ライトカバーと呼ばれる樹脂製の保温材が全体に取り付けられている。(別添写真2及び事例1回路図参照)
(4) 再現実験
今回の事例では,応用バンド自体が通電によって表面温度が上昇し,周囲の可燃物が着火したことが考えられ,その状況を確認するために再現実験を行った。
ア 使用した電気溶氷機の概要
実験に使用した電気溶氷機は,電流制御機と呼ばれる本体と溶氷クリッパーと呼ばれる2本の電気コードで構成されている。
電流制御機は,入力電圧が単相交流100Vと200Vに対応でき,今回は住居の100Vが使用されている。また,100Vでの入力電流は,10A,15A,20Aの3段階で設定ができ,今回は10A,15Aで設定し実施した。
なお,火災事例の現場においては,15Aにより作業を行った。
また,電気溶氷機は,入力電圧100V使用時で,最大二次電圧8V,250Aの電流が流れる。
イ 実験結果
給水鉄管と給湯銅管を応用バンドを介して接続し,直列回路を作成して一次電流を10Aに設定,通電させたところ,回路には84Aの電流が流れ,210秒で応用バンドの表面温度が475℃に達して赤熱状態となり,応用バンドを取り付けていた下部の垂木が発炎した。(別添写真3,4参照)
また,一次電流を15Aに設定して通電させたところ,回路には120Aの電流が流れ,7秒で応用バンドの表面温度が440℃に達し,赤熱した。この時点で,管表面に巻いている保温材が一気に発炎した。(別添写真5参照)
写真3
写真4
84Aの電流が流れ応対バンドが赤熱した状況
写真5
120Aの電流が流れ応対バンドが赤熱した状況
(5) 出火原因
電気溶氷機により凍結の解氷作業の行われた水道管は,天井裏の隠ぺい部分で直接巻かれた応用バンドを用いて,2階の床裏から吊るした状態で支持固定されていたものであるが,この応用バンドの一端が隣接する水道管に直接接触していたこと。さらには,これらの給水,給湯用の水道管が風呂場内の混合水栓にそれぞれ接続されていたこと。このような状態の中で,水道業者が,給水側,給湯側の水道管にそれぞれ通電させたため,配管固定の金属製応用バンドや混合水栓の接続によって,天井裏の隠ぺい空間で形成されていた意図しない別回路にも通電され,短時間で応用バンドが発熱し,直近の保温材が着火したものである。
なお,今回は直列回路により実験を行ったが,純粋な金属元素データーによると,銅と鉄では,0℃で抵抗率がそれぞれ1.55μΩcmと8.71μΩcmであり,双方の配管の長さや断面積,配管接続部の接触抵抗等を除いて,5.6:1.0の比率で電流が分流されることになり,並列回路においても電気抵抗の小さい銅管側に多くの電流が流れます。
3 おわりに
本市においては,上記の出火事例以外に電気溶氷機からの出火が相次いで発生しましたが,他の事例としては,地下1階から1階までの立ち上がり管を解氷するために,水抜き栓を利用して閉回路をつくり,通電した際,水抜き栓のハンドル下部で床下内のジョイント部分で発熱したために断熱材が着火し,延焼拡大する火災も発生しております。(別添写真6,7及び事例2回路図参照)
何れも天井裏や壁内等の隠ぺい空間内において,水道管以外の金属に電流が流れ,ジュール熱により発熱し出火した場合,発見の遅れなどが加わって,大きな被害が生じている状況であります。
札幌市消防局ではこれらの火災事例を踏まえ,再発防止に向けて本市の水道担当部局を介して,水道業者の指導を行うとともに,併せて報道機関を通じて住民に対しても注意喚起を行ったところであります。
写真6
写真7
事例2 回路図