はじめに
低圧進相コンデンサは業務用冷蔵庫やモーター等を使用する電気機器の力率を改善し,電力の無駄を省く機器として長年,店舗や作業場等で使用されていますが,昭和50年(1975年)以前に製造されたコンデンサは,保安装置が内蔵されていないため,その取扱いが正しくないと内部の絶縁材料が劣化して発熱し,出火に至る場合があります。ちなみに大阪市内では,低圧相コンデンサによる火災が,平成9年から11年の3年間に35件発生しています。
また,季節別でみると,気温が高くなる6月から8月にかけた夏場に多発しています。(表1参照)
表1 低圧進相コンデンサ火災状況
今回,設置後30年経過した低圧進相コンデンサがパンク(絶縁破壊)し,火災になった事案を紹介します。
1 火災概要
(1) 出火日時
平成11年6月15日(火)0時04分ごろ
(2) 火災の状況
深夜,無人の鉄骨造3階建作業場の2階壁面に取付けられた木製の配電盤の箱開閉器に接続された業務用ミシンの力率改善用低圧進相コンデンサから出火し,天井,側壁5㎡焼損した火災である。出火後,近隣者が火災に気付いたが,施錠のため建物内へは進入不能で,初期消火が出来なかったものである。
2 焼損状況
2階作業場壁面に取付けられた木製の配電盤を基点に燃え上がった状況で,天井側壁が5㎡焼損している。配電盤には箱開閉器が4個並列に接続されており,このうち左側の同開閉器に低圧進相コンデンサ(定格容量10μF)が1基接続され,同配電盤下方の床面には焼損したコンデンサが1基落下して認められる。各開閉器に接続された配線の絶縁被覆はすべて焼失し,心線が露出した状態で認められる。(写真1・2参照)
写真1 配電盤等の焼損状況
写真2 配電盤の状況(同型品)
3 コンデンサの見分状況
床面に落下していた低圧進相コンデンサ(以下,本項においてコンデンサという。)を子細に見分すると,金属製のコンデンサケースは膨らんで蓋が外れ,内部の絶縁体(誘導体)が絶縁破壊を起こした,いわゆる「パンク」と呼ばれる状態である。(写真3参照)
写真3 焼損したコンデンサの外観
コンデンサの金属製ケースを切り開くと内部のコンデンサ素子(エレメント)3本すべてが炭化している。(写真4参照)
写真4 コンデンサ素子の焼損状況
コンデンサ素子を輪切りにして観察すると,内部まで炭化が著しいのが分かる。(写真5参照)
一方,箱開閉器に接続されていたコンデンサの金属製ケースを切り開いて,内部のコンデンサ素子を観察すると,素子表面は炭化しているものの原形を保っている。素子を輪切りにして内部を見ると炭化等の異常は認められない。(写真6・7参照)
写真5 輪切りにした素子内部の焼損状況
写真6 原型を保っている素子の状況
写真7 輪切りにした素子内部の状況
4 コンデンサの構造と働き
進相コンデンサのような電力用コンデンサの基本構造は,絶縁体(誘導体)の両側に2枚の電極(金属板)を取り付けて,電気エネルギーを「静電気」の形で蓄えることができるようにした部品です。本事例の進相用コンデンサの構造は,コンデンサ金属ケース内部に,絶縁紙とアルミ箔を交互に重ね巻いたコンデンサ素子(エレメント)が,直列又は並列に接続されており電極となるアルミ箔の代わりに,絶縁紙に金属塗膜を蒸着した金属蒸着紙を使って,コンデンサ素子端面の蒸着金属露出部分に,更に金属蒸着(メタリコン)し,この部分にコンデンサケースの端子に接続されたリード線をハンダ付けした,いわゆる「金属蒸着紙(MP)コンデンサ」と呼ばれているもので,ケース内には鉱物油などの絶縁油が含浸されており,これら絶縁紙や絶縁油を総称して誘導体といわれています。
コンデンサに交流電圧を加えると,交流は一定の周期〔1秒間に60(50)回〕で電圧と電流の方向と大きさが変化する性質を持っており,電圧の増加しつつある時は,それに応じてコンデンサには充電電流が流れて電荷が蓄えられ,電圧が減り始めると,逆に充電されたコンデンサから交流電源に向けて,放電電流が流れ始め,電圧が反対方向になっても前とは反対方向に充電が行われ充電と放電を繰り返して連続的に電流が流れることとなり,図のように電圧の上昇時と下降時に電流が流れ,電圧最大点では電流は0となり,電圧と電流が時間的にずれる,これを「位相が異なる」又は「位相差がある」と言われています。このような性質,機能を利用して配電盤や蛍光灯など,負荷の力率改善に進相用コンデンサが用いられています。
コンデンサに加わる電圧と電流関係図
5 出火原因の考察
コンデンサケース内では,フィルム(紙)やアルミ箔の間を絶縁油(これらは誘導体と総称されている。)で満たしているが,本事例のように長期間(30年)の使用によって,誘導体(絶縁体)に電気的あるいは熱的ストレスが加わって,電気絶縁性を消失して回復しない状態,すなわち絶縁破壊(パンク)となる。これによって破壊されたコンデンサ素子は短絡状態となり,これに直列接続された素子も連鎖反応的に短絡し,その結果,回路に流れる電気は段階的に増加し,ついには完全短絡となって,非常に大きな短絡電流が流れ,この時のエネルギーで誘導体(絶縁体)を炭化させるほか,絶縁油などが分解ガス化して,内圧が上昇しコンデンサケースが破裂することによって,空気に触れて燃え上がったことが考えられます。
6 コンデンサの正しい取扱い
- (1) 保安装置が内蔵されていない旧形(1975年以前製造)は火災防止のため早急に取替えが必要です。
- (2) 保安装置内蔵(1975年以降)のコンデンサも,使い方や周囲環境によってはコンデンサ内部の絶縁材料が劣化し,危険な場合もあるので10年以上使用しているコンデンサは早めに取替えが望ましい。
- (3) 次のような場所への設置は注意してください。
- ① 雨・水滴がかかったたり,湿度の高い場所,結露しやすい場所
- * 雨の吹き込むところ,引込電線管穴,窓際,軒下など
- * ビニールハウス,濃霧多発地域
- * パッケージ形エアコン内などでは結露した水滴がかかる場合があります。
- ② 直射日光が当たるなどの温度の高い場所
- * 併設機器から熱影響を受ける場所
- * 密閉された場所では換気などに配慮する。
- ③ 鉄粉・塵埃の多い場所
錆び付きやすく,端子部が接触不良を起こす場合があります。 - ④ 腐食性ガスの漂う場所,塩害のある場所
化学薬品工場,海岸などで使用する場合は腐食防止策,塩害防止策を施す。 - ⑤ 振動のある場所
電線接続ネジのゆるみなど,たいへん危険です。
- (4) 保守点検のチェックポイント
- ○ 温度上昇の異常はないか
- ○ ケースに穴があいたり,油漏れはしていないか
- ○ ケースが異常に膨れていないか
- ○ 湿気や水滴がかかっていないか
- ○ 錆が発生していないか
- ○ 締付けネジのゆるみはないか
- ○ 鉄粉やホコリが異常に積もっていないか
7 まとめ
本事例の低圧進相コンデンサは,保安装置が内蔵されていない1970年製造で,30年余り使用されていたことから,経年変化による絶縁劣化で「パンク」に至ったものと考えられます。社団法人 日本電機工業会によると,低圧進相コンデンサは10~15年以上の寿命を持つよう設計されているようですが,安全に使用するためには10年を更新の目安として推奨しています。