消防専門知識の提供

火災原因調査シリーズ(16)
電気火災蓄電池設備火災

はじめに

 今回ご紹介する火災は,蓄電池設備の一部が焼損したもので火災自体は小規模のものでしたが,出火に関連があると思われる部分が離れた3箇所にあったため,電気火災特有の事例として紹介します。

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1 火災概要

(1) 出火日時

 平成10年10月15日(木)8時20分ごろ

(2) 火災の状況

 出火したのは,大規模電気需要施設である電車車庫の管理棟で,耐火造地上4階,地下1階の建物である。焼損等が見分できるのは,4階に設置してある電池室のキュービクル式蓄電池設備内の制御線端子台及び付近の配線並びに焼結式ニッケル・カドミウムアルカリ蓄電池(以下「蓄電池」という。)1個,さらに,電池室の隣室となるシステム機器室の,蓄電池設備充電器盤内の液面警報リレー2個にも焼損等が発生している。
 発見状況等については,同じフロアで勤務していた職員が爆発音とガラスが割れるような音を聞きつけ,電池室に行ってみると炎のようなものが見えたので,ただちに粉末消火器を使用して初期消火をしたもので,消防隊が到着した時はすでに鎮火していた。

2 現場の状況

 焼損等が見られるのは,4階の電池室及びシステム機器室で,各室の概要は次のとおりである。

(1) 電池室について

 電池室は,各種電気機器の操作及び予備電源などに使用される蓄電池を収容したキュービクル式蓄電池設備が中央に設置されている。スチール製キュービクル内は上段と下段に分かれており,上段は4列109個(1列目28個,2列目から4列目27個),下段に4列108個(各列27個)の総数217個の蓄電池が収納されている。また,収納されている蓄電池は上段左側から順にNo.1からNo.217まで呼称している。
 キュービクル内壁の南側に端子台があり,そこに接続されている配線は次のとおりである。

  • ①  全部の蓄電池が接続されている配線
  • ②  中間タップ用制御線(直流から交流に変換する回路電源を蓄電池から取り出すもの)
  • ③  温度警報センサー(217個の蓄電池のうち8個に接続)の配線(DC8V)
  • ④  液面センサー(217個の蓄電池のうち4個に接続)の配線(DC8V)
  • ⑤  端子台上部にある換気扇用の配線(AC100V)

(2) システム機器室について

システム機器室は,当施設内で使用されている機器を制御する機械等が収容されており,その中に蓄電池設備の温度警報センサー及び液面警報センサーが充電器盤内のリレーに接続されている。

3 焼損等の状況

(1) 電池室内の焼損状況

 電池室内には,焼損等が見られる部分が2箇所見分される。
 1箇所は,端子台とその部分に接続されている前記2(1)の①から⑤の配線が端子台付近のみ焼損している。(写真No.1参照)

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写真1

 もう1箇所は,No.175蓄電池の電槽が破損し,蓄電池の電解液が流出している。この蓄電池には液面センサーが接続されている。
 端子台とNo.175蓄電池は3メートル位離れており,端子台付近が燃えている時の熱が,蓄電池に影響することは考えられない。また,蓄電池の破損面と端子台の方向も一致せず,距離的にも破損した際に電解液が端子台に飛散する可能性は極めて低い。
 この他に,約1年前に蓄電池設備点検中に,No.51蓄電池を破損して電解液を流出し,キュービクル枠組の支柱と横さんが赤茶色に腐食した痕跡が見られ,端子台付近の枠組も腐食している。

(2) システム機器室の焼損状況

 前記2(2)のとおり,システム機器室には,液面・温度などのセンサー用のリレーがあり,液面警報リレーはZ1からZ4(Z1はNo.44蓄電池,Z2はNo.70蓄電池,Z3はNo.175蓄電池,Z4はNo.149蓄電池にそれぞれ接続されている。)と呼称されているもので,この内Z3リレーの基板が焼損し,Z2リレーについては,リレーの構成部品であるアレスタ(雷等による急峻な電圧を吸収する素子)が破損している。

4 詳細見分

(1) 蓄電池設備端子台付近の状況

 端子台付近の焼損した配線を見ると,中間タップ用制御線,換気扇用配線,液面センサー配線(No.175蓄電池用)が強く焼け,その中の中間タップ用制御線が溶断している。(写真No.2参照)

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写真2

 この部分を詳細に見分するため,蓄電池設備から切り離したところ,配線の断面に芯線の色の違いが見られた。(写真No.3参照)この違いについては,以前にNo.51蓄電池が破損した際に流出したアルカリ電解液が芯線に浸透したためと考えられる。(アルカリ電解液は,浸透性が非常に強いことから,破損の際,電解液の一部が残留し,その下の端子台の制御線から毛細管現象により浸透したものと推定される。)

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写真3

 この部分を詳細に見分するため,蓄電池設備から切り離したところ,配線の断面に芯線の色の違いが見られた。(写真No.3参照)この違いについては,以前にNo.51蓄電池が破損した際に流出したアルカリ電解液が芯線に浸透したためと考えられる。(アルカリ電解液は,浸透性が非常に強いことから,破損の際,電解液の一部が残留し,その下の端子台の制御線から毛細管現象により浸透したものと推定される。)

(2) No.175蓄電池の状況

 No.175蓄電池は,電装の前面と後面の約3分の1が破損しており,その状況から,電槽内部からの圧力により破損したものと考えられる。(写真No.4参照)

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写真4

(3) 液面警報リレーの状況

 Z3リレー(No.175蓄電池に接続)は,抵抗器及びトランジスタが焼損し,アレスタ及びコンデンサは破損した状態である。Z2リレー(No.70蓄電池に接続)は,アレスタのみが破損している。(写真No.5参照)

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写真5

5 出火原因

 以上のように,3箇所から焼損等の異常が見分されるが,それぞれの距離は離れており,相互に関係があるのは,液面センサーが接続されているということである。

(1) 液面警報リレーについて

 液面警報リレーについては,前述のとおり,抵抗器及びトランジスタが焼損し,アレスタ等が破損しただけであり,過電流によるものと推測できる。

(2) No.175蓄電池について

 破損した蓄電池は,電槽内部からの圧力により破損したものと考えられる。更に蓄電池の構造を見ると,通常の状態で破損することは考えられない。このことから,電槽内の気相部分に発生している水素ガスに何らかの火源が引火し爆発したものと推測でき,火源についてはNo.175蓄電池電槽内に接続されていた液面センサー部分で火花が発生したものと推察する。

(3) 端子台付近について

 この部分の焼損の程度を見ると,他の部分に比べ強く焼けている。また,端子台に接続されていた配線には,以前に流出したアルカリ電解液が浸透していることが見分できる。

(4) 結論

 以上のように,現場の状況を見ると液面警報リレー及び蓄電池自体から出火することは考えにくく,過電流などの影響によることが考えられる。
 よって,本火災の原因は,端子台にある中間タップ用制御線(通電状態)にアルカリ電解液が浸透したことにより,配線被覆がグラファイト化し発熱・発火したものと推定した。

6 焼損等があった3箇所の関連性

 焼損等があった液面センサーに接続された3箇所の関連性については次のとおり推測される。

  • ①  端子台の配線被覆が焼損する。
  • ②  端子台に接続されている蓄電池設備用の換気扇電源のAC100Vがリークした。
  • ③  リークしたAC100Vが,No.175蓄電池の液面センサー配線(通常はDC8V)に印加し,液面センサーと液面警報リレーに過電流が流れた。
  • ④  液面センサー配線に過電流が流れたため,No.175蓄電池内部の液面センサー部でスパークが発生し,蓄電池内部の水素ガスに引火・爆発し電槽が破損した。
     これとほぼ同時に液面警報リレーも焼損したものと思われる。

まとめ

 ここでご紹介した火災は,消防隊が最初に現場を見たときには,端子台付近の火災と安易に考えながら調査を進めていたところ,二次,三次と火災に関連するものが発見され,また蓄電池設備という普段見慣れない装置からの出火ということもあり原因を究明するのが困難な火災でした。
 このように,小規模な火災でも,電気火災等出火に至るメカニズムが複雑なものもあり,原因究明が難しくなってきており,更に専門的知識を研さんする必要があることを痛感させられた火災でした。