はじめに
インバータ式蛍光灯は,交流電源を整流平滑し,高周波に変換して蛍光灯を点灯させるもので,電子回路のはたらきにより,電極の予熱時間が少なく即時点灯ができ,さらに,高周波点灯により,省電力・高効率・50Hz/60Hz両用・低騒音・ランプのちらつきが感じられないなどの特長をもっています。また,スタータや安定器が不要なため軽量小型化が図られていることから,近年,その需要は増加しています。 今回,横浜市内おいて,一般家庭に設置されていたインバータ蛍光灯の電子回路*1基板から出火した火災が発生したため,この概要を紹介します。
1 火災概要
木造専用住宅内のインバータ蛍光灯1基が焼損したもので,出火時の状況は,居住者が居間でテレビを見ていると,蛍光灯が突然消えて1秒絶たないうちにまた点灯したため,蛍光灯のプルスイッチを引っ張り一度消し,再度点灯し直したところ,パチッという音がし,しばらくしてカバーが燃え出したため,粉末消火器で消火したものである。
2 調査概要
(1) 蛍光灯の仕様等
型式 | 天井設置型 |
---|---|
点灯方式 | 高周波点灯方式(インバーター方式) |
ランプ接続方式 | 並列 |
調光方式 | 調光コントロール端子を電源入力端子に接続することで調光 |
保護機能 | トランジスタ異常発熱時発振停止 |
適合ランプ | FL20/18 5灯 (20W 5灯用) |
入力電圧 | AC100V±6% 50/60Hz |
入力電流 | 1.85A±10% |
計画寿命 | 延点灯時間24,000時間 |
使用年数 | 約6年 |
(2) 焼損状況
蛍光灯カバー(アクリル製)は,電子回路ボックス側の約半分程度が溶融し内部が露出している。蛍光灯本体を取り外し見分すると,電子回路ボックスカバー(PP製ガラス粉末混合)の入力側が一部溶融し,内部基板が露出しており,その周辺が焼焦し黒く変色している。(写真1)
写真1 本体焼損状況
電子回路ボックスの外の入力及び出力側の配線は,若干の変色が見られるものの,芯線の露出等は認められない。
内部の基板は,入力側の一部が焼失している。(写真2)
写真2 基盤焼損状況
3 鑑識及び実験概要
(1) 鑑識結果
ア 電子回路ボックスカバーを取り外し内部を見分すると,入力端子側の基板の一 部が焼失しており,その周囲のコンデンサが焼損している。(写真3)
入力端子にあるコンデンサーC1は黒く煤け膨らんでいるが,静電容量をテスターにより測定すると0.044μFを示している。(定格値0.047μF)
写真3 基盤焼失箇所の状況
イ 入力端子Dに接続するヒューズは黒く煤けているが,テスターで測定すると導通が認められる。
基板の半田面を見分すると,E端子は半田が半分残っている。E端子から延びる銅はくは,14㎜焼失している。D端子からヒューズに延びる銅はくは,8㎜のうちヒューズ側3㎜が焼失している。ヒューズの端子部分の半田は,すべて焼失している。一部基板の焼失している部分の周囲の炭化している部分の導通を測定したが,すべて∞を示した。ヒューズを基板から外し,ヒューズの端子を拡大させて見分した。入力端子D側のヒューズ端子は基板面との接触部分で,他の部分より細くなっている。
(2) 実験概要(同型品使用)
ア 結果
E端子から延びる銅はくと,D端子から延びる銅はくとの間の電圧は蛍光灯点灯時48.6Vで,銅はく間の絶縁を剥がし,塩水で導電すると絶縁を剥がした部分でスパークが始まり,その基板部分でトラッキングが始まった。この際,蛍光灯は点灯したままであった。さらに,塩水を加え続けると急激な短絡が起こり,その部分の基板上の銅はくが焼失し断線状態となり,トラッキングの継続が出来なくなった。(写真4)
写真4 トラッキング状況
イ 実験結果からの考察
トラッキングの条件が整えば蛍光灯が点灯したまま,トラッキングが継続する可能性が判明した。この時の電流の流れを図に示す。
図1 トラッキング発生箇所
4 出火原因について
鑑識及び実験結果から出火原因は,電子基板上のE端子から延びる銅はくとD端子側のヒューズ端子部分間のトラッキング破壊によるものと判定した。
トラッキングの発生時点については,「前日に蛍光灯が一瞬消えて,すぐ点灯した」という居住者の供述から,この瞬間断線の時点でD端子付近でスパークが発生,表面絶縁を破壊しE端子間でトラック(通路)が形成され,トラッキング現象に至ったものと推定でき,「蛍光灯が点灯した状態でトラッキング破壊が継続する可能性」という実験結果を併せれば,出火当日,蛍光灯点灯状態でトラッキング破壊が進行していたことが推測できる。
なお,D・E端子間でトラックが生じた要因としては,半田付の不良か半田の材質不良等により,設置後約6年の熱膨張と収縮の繰り返し等で経年劣化を起こし,クラック(ひび割れ)ができ,接触不良により強いスパーク*2が繰り返し発生し,基板の表面絶縁が破壊されたためと推定した。
おわりに
インバータ蛍光灯は,従来,蛍光灯からの出火の大半を占める安定器コイルに起因する出火危険性がなくなったことから,比較的安全性が増したと思われがちだが,負特性サーミスタの特性により,いたずらなスイッチの入切等によって,電子回路の経年劣化を増長させてしまう危険性が従来方式に比べ存在します。
したがって,消費者に対し,蛍光灯使用時に異常を感じたときには,使用を中止し,点検をすることが必要であるということはもちろん,日頃のいたずらなスイッチの入切等に留意することなども併せて,今後,周知させていくことが必要であると思われます。
*1 この電子回路を電子安定器と総称しているメーカーもある。
*2 点灯中,サーミスタは自らの抵抗で発熱し抵抗値が低くなっており,消灯後,すぐに点灯すると,すぐに冷えないために大きな突入電流が流れてしまう。これと同様に接触不良が発生すると,突入電流が断続的に流れるため,相当なスパークが生じる。
〔6D22サーミスタの場合の突入電流〕(ラインインピダンスを無視できるとして)
25℃時=6Ω
140(最大値)/6Ω≒23A
130℃時=0.465Ω
140(最大値)/0.465Ω≒301A