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火災原因調査シリーズ(12)
車輌火災車輌火災 – 電気系統からの出火事例について

1 はじめに

 自動車本体から出火した火災の原因を系統別に分類すると,燃料系,電気系,排気系等に分けることができます。このうち,電気系からの火災の特徴としては,出火原因となる痕跡が微小のため発見しにくい点や,エンジン停止後でも出火することがある点が挙げられます。
 今回,このような電気系から出火した事例がありましたので紹介します。

2 短絡による出火事例

2 - 1 火災概要

 出火日時:平成10年8月15日8時53分頃
 出火車両の状況:平成3年式国産車
 焼損程度:エンジンルーム内のみ全焼している。

2 - 2 出火時の状況

 走行中,突然「ボン」という音とともにエンジンルームから白煙が上がったのを見て路上に停車したものである。

2 - 3 現場調査の結果

①焼損したのは,エンジンルーム内全てである。
(写真1参照)

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②エンジンルーム内には,エンジンオイルクーラー用のエンジンオイルが流れるホース(以下「オイルホース」という。)があるものの,フロントグリルに空冷式エンジンオイルクーラーが取り付けられていないため,オイルホースはただ単にエンジンオイルを循環させるだけのものである。これは,出火日の3日前に当該オイルクーラーからエンジンオイルが漏れたために取り外そうとして所有者が,一番修理費用の安い方法での修理を修理業者に依頼し,現在の仕様にしたものである。
(写真2参照)

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③燃料用の合成ゴム及び樹脂系の機器はすべて焼失し,バッテリ上部の樹脂は焼失しているものの,+及びー端子は一切焼失しておらず,出火原因になるような痕跡はない。

④そこで,インテークマニーホールド(エンジン本体の右車輪側)を取り外すと,スターター端子の横のオイルパン側面に前記のオイルホース(円筒の合成ゴムの外周にメッシュ状のステンレスを巻いたホース,長さ約120cm)が接続され,エンジン本体の右前輪側全体に大きな円を描くように固定せずに取り回している。この接続部は,360度自由に回転できるタイプである。
 スターターB端子(写真3参照)に接続されている電気配線の接続金具の下面には,火災熱で溶けた状況とは明らかに異なる溶融痕がある。この直下のオイルホースにも直径1cmの溶融痕があり,合成ゴムも焼失している。この位置は接続金具の溶融痕の位置と一致するとともに,振動等の外力が働けば容易に接触することができる状況である。また,このオイルホースには,溶融痕からエンジン本体の約10cm反対側方向に同じ大きさの溶融痕があり,2箇所の溶融痕は,接続金具と同じで二次的な火災熱で溶けた状況とは明らかに異なる。

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⑤オイルパンのエンジンオイルを計量すると約2リットルであり,約2リットル減量している。

2 - 4 出火原因

 電気は,バッテリ+端子からイグニッションスイッチ(以下「IG」という。)を介して電装品に入り,ボディにアースされているためボディに流れる。基本的に電気配線には,IGを介しているためONにすると電気は流れる。OFFにすると電気は流れないが,バッテリ+端子からIGまでの間は,常時電圧が印加されているためボディに接触さえすれば,電気回路が形成され短絡出火し得る。(図参照)しかも,バッテリーからスターターB端子までの電気配線には,フューズが入っていないため短絡による溶融痕が非常に大きくなる。今回の事案は,常時電圧が印加されているスターターB端子の接続金具に溶融痕がある。
 また,オイルホースは,走行中の振動により揺られた際に,スターターB端子の接続金具に接触する位置関係にあり,もう一方の溶融痕でも,ボディアースされた箇所に接触している。
 したがって,オイルホース上で電気回路が形成され,接続金具とオイルホースの接触部分から出火したものと考えられる。
 なお,エンジンオイルはオイルホースから漏洩しても高温部にこぼれ落ちた場合に限り発火するのが一般的である。今回の自動車の高温部である排気管は,オイルホースを設置している反対側であるため,エンジンオイルは最初の着火物ではないが,オイルホース上で電気回路が形成された場合のエンジンオイルが火災に及ぼす影響を確認するために再現実験を行った。

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2 - 5 再現実験

 同一車の入手が困難なため,消火器を使用し,ホース部分を同一のオイルホースに付け替えて実施した。
 実験に先がけ,火災発生時と同一条件にするために以下のとおりとした。

①エンジンオイルの温度は,90℃にして消火器の中に注入する。

②当該車両のオイルホース内のエンジンオイルは3kg/cm2であったことからコンプレッサーで同一圧力にする。
 バッテリ+端子から延ばした電気配線(ー端子から延ばした電気配線は,予めオイルホースに取り付けておいた)をオイルホースに接触させたところ,オイルホースのメッシュ状ステンレスが赤熱して,その後ホース内の合成ゴムが発火する。さらに,合成ゴムの穴の開いたところからエンジンオイルが霧状で噴出した後,引火して一気に火炎が拡大する状況が確認できた。(写真4参照)

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写真4

3 おわりに

 自動車火災のうち電気系からの出火は,痕跡を残しにくいものであるが,今回の事案は,電気系からの出火の特徴となる痕跡を残した事例であった。